【書評】金城馨著『沖縄人として日本人を生きる~基地引き取りで暴力を断つ』

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「積極的平和」に通じる概念

大正区のエイサーは、今年(2019年)は9月8日(日)に大正区千島グランドで行われる。そして本年はそれに合わせて玉城デニー知事が名護市辺野古の新基地建設など基地問題を全国の世論に喚起する全国キャラバンのシンポジウムを、同日の9月8日に大正区千島グランドのすぐ向かいにある大正区大阪沖縄館で開催する。大正区エイサーに知事も参加する予定で、著者はその準備のためにこれまで奔走してきた。

全国キャラバンは全国の6都市に知事が参加するシンポジウムという形式で行われる予定だ。タイトルは「WE LOVE OKINAWA」となっている。

しかし、「特殊な誰かの慈善」による対応は、偶然的で一過性、時間・空間を超えた対応を要請できない。沖縄が好きでも嫌いでも、沖縄に関心があろうがなかろうが、民主主義は「いつでも、どんな人でも、どこにいても、権利が保障されてこそ」だ。

著者も、沖縄へ連帯を求めてくる日本人にどう対応すべきかを絶えず自問自答してきた。2000年ころ「沖縄に基地を押し付けない市民の会」を結成している。1995年の少女暴行事件をきっかけに「連帯」とは何かという問題を考えてきたという。

著者も「基地問題は政治問題ととらえるのと差別、人権の問題として捉えるのとでは、平和と言う問題も政治問題として捉えるのでは、違った方向へ行くと思います。」と述べる。

これはまさに、戦争のない状態を平和と捉える「消極的平和」に対し、平和学の世界的権威であるヨハン・ガルトゥングが、貧困、抑圧、差別、疎外(排除)など構造的暴力のない状態を「積極的平和」とする概念の提起と同様のことを述べている。暴力の拡大概念を示すことにより、平和の拡大概念を導き、構造的暴力の不在こそが、社会正義であり、それが積極的に定義された平和の状態ということだ。

積極的平和概念によると、平和は誰かに押し付けられるものではなく、紛争の原因となっている貧困や抑圧、差別などの社会問題が解決すれば、紛争の根拠はなくなり、自然に訪れるものであり、社会の常識となっていくという過程を重視することができる。それは、人間の生活における問題や対立をどのように解消するかを考え、暴力概念の拡大から平和概念の拡大を導き、正義や公正、人権や民主主義を考えていくことにつながる。

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