佐藤モニカ「名護の地図」20首

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佐藤モニカは千葉県出身の歌人・小説家である。2013年から名護市在住。2014年に発表された連作「キャンベルスープ」は、同年の名護市長選挙の前後の日常を詠んだものである。今回、「キャンベルスープ」の作品と、その後の歌を含めて「名護の地図」20首として再構成してもらった。名護市長選挙が話題となっている今、同市在住の歌人がどのような歌を詠んできたのか、触れてもらえたら幸いである。なお、以下の作品はすべて佐藤モニカ『夏の領域』(本阿弥書店、2017年)からの引用となる。(屋良健一郎)

 

 

名護の地図(佐藤モニカ)

 

人の顔覚えず猫の顔ばかり覚えて名護の地図を描きゆく

 

すぐ雨の降りだす土地は悲しみの多き土地とも言へるかもしれず

 

横長に灰色のフェンス続きゐて終はりさうでまだ終はらぬ話

 

屋敷壊しと言はるるデイゴいつの日か基地壊さむと囁き合へり

 

痛みを分かち合ひたし合へず合へざれば錫色の月浮かぶ沖縄

 

転がれるコルクを見ればこの今も誰か撃たるる戦場がある

 

酔ひ深き夫がそこのみ繰り返す沖縄を返せ沖縄を返せ

 

赤き粉噴きつつ螺子の傾きてもう耐へられずと泣いてゐるなり

 

夢の中であれど恐ろし次々に空の奥より兵士降り来て

 

キャンベルの赤きスープに浮かびゐるアルファベットがYESと迫る

 

ましろなるバスタオル干すわれわれは降参をしてゐるにあらずや

 

どちらが勝つても悲しいものが残りさう 夫と連れ立ち投票へ行く

 

スリッパの音のみ響く体育館投票はつね祈りに似たり

 

ラジオより唐船ドーイ流れきて運転手少し体を揺らす

 

選挙終はりし町いつになくやつれたりハイビスカスの萎むのに似て

 

朝と夜を綴ぢ合はすごと鳴きてゐるイソヒヨドリの一筋の声

 

みんなみは明るくまぶしいだけでなしその濃き影をつくづくと見る

 

次々と仲間に鞄持たされて途方に暮るる生徒 沖縄

 

黒猫にヤマトと名付け呼ぶ度にわれの本土が振り向きゐるか

 

夕暮れの山はうるみて名護の町前世来世の桜も咲けり

 

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