異質な政治空間へのまなざし~軍事と住民自治

この記事の執筆者

【おすすめ3点】

■現代思想11月号(青土社)

特集「自治」の思想 軍事と自治-「戦後80年」における島嶼疎開政策の再来(石原俊)

八重山住民の「時空間意識」に即した有事避難についての議論を促す

■琉球 揺れる聖域(安里英子、藤原書店)

琉球弧の人々の暮らしの現場から「自治」の本質を問うルポ

■従属の代償 日米軍事一体化の真実(布施祐仁、講談社)

台湾有事を見据えた日米ミサイル部隊の一体化を検証


1998年に沖縄の新聞社に転職した当時、それまで勤務していた全国紙で使わなくなっていた「革新」という選挙用語が、沖縄では他の言語に置き換えられない形で脈々と息づいているのに接し、驚いた記憶がある。沖縄の政治空間は今も本土とは異なる。実際、10月の衆院選でも小選挙区で全国唯一、共産と社民が議席を確保した。

米軍駐留から派生する人権上の課題が突出している沖縄本島では、本土の系列下にある既存政党への不信もくすぶる。一方、軍事が地域社会に直接的な変化をもたらしているのが、台湾に近い南西端に位置する八重山列島だ。

中でも、自衛官とその家族が島の人口の5分の1以上を占める与那国島は、駐屯地開設から10年もたたないうちに自衛隊の存在を考慮せずには成り立たない社会・経済体制が構築されている。

『現代思想』11月号でこうした自治の変容を報告した明治学院大の石原俊教授は与那国島や石垣島を念頭に、軍事と有事にかかわる住民政策がトップダウンでなし崩し的に進められていると指摘。歴史認識や境界意識を含む「八重山住民の生活者としての時空間意識」に即した有事避難の議論が欠けているとし、当事者の自由と自治を尊重しながら、国民的議論を経て、丁寧に構想する必要を説く。底意には、有事を視野に住民避難を想定すること自体に否定的な左派、緊急事態条項創設に依拠しようとする右派、さらには無関心層を含む国内世論への批判が込められている。

沖縄本島からは本土に向けて異議を表明する回路が切り拓かれ、本土の右派の否認にさらされている。しかし、八重山と本土の間には「告発-否認」の関係すら成立していない。沖縄本島や本土の左右両陣営の利己的な「主義主張」に引きずられることなく、住民の安全確保に最善を尽くすよう促す石原は、先の戦争で島外疎開を強いられた小笠原群島や硫黄列島の住民の受難を記録してきた研究者だ。そこには、戦時の疎開命令がマラリア罹患による大量死という悲劇を招いた八重山の過去の教訓も踏まえ、戦後80年ぶりとなる日本の島嶼疎開政策を俯瞰する視座がある。

この記事の執筆者