【おすすめ3点】
■語れ、内なる沖縄よ―わたしと家族の来た道(エリザベス・ミキ・ブリナ、石垣賀子訳、みすず書房)
沖縄出身の母とベトナム帰還兵の白人の父をもつ米国人女性が自身のルーツと向き合う
■帝国アメリカがゆずるとき―譲歩と圧力の非対称同盟(玉置敦彦、岩波書店)
超大国アメリカの同盟政策のメカニズムを解き明かす
■ユナ(名和純、新沖縄文学2025特別復刊号、沖縄タイムス社刊)
開発や基地建設で破壊されてきた貝の生息環境を、貝と一体化した主人公の視点で描く
トランプ政治が世界を揺るがしている。石破茂首相は米政権が発動した関税措置を「国難」と位置づける。来日したヘグセス米国防長官は、西太平洋で有事が発生した場合に「日本は前線に立つ」と発言した。経済も安全保障も「米国とどう向き合うか」が、かつてないほど幅広い層で議論されている。
対立や分断は、それぞれが「自分の立ち位置」に閉じこもることで固定化されていく。だが人間は本来、経験や環境によって価値観や考え方を柔軟に変えていく生き物でもある。『語れ、内なる沖縄よ』はその過程を、両親との距離感を軸に娘の視点で描いたノンフィクションだ。
1981年にシカゴで生まれた著者は、元米軍エリートで白人の父の世界観を共有し、背伸びして議論することに誇りを感じる一方、言葉も不自由な沖縄出身の母の存在を疎み、家族であることを密かに恥じる思春期を過ごした。いくつかの挫折を経験し、30代に成長した娘はそんな自分の過ちに気づく。社会的強者を体現していた父が老いに伴い弱さや脆さを露呈するのと反比例するように、弱者だったはずの母の強さを知り、母と向き合うことで娘は自分の人生を立て直していく。
筆者はつい、父を米国、母を沖縄に重ね、語り手の娘を日本に仮託したい誘惑にかられるが、国際情勢は日米と沖縄の「家族の物語」で語り尽くせるほど単純ではない。米中ロなどが覇権を競う多極化の様相を呈し、周辺国家も独自の外交戦略を求められている。だが一方で、非対称な国家間の同盟関係が国際秩序を支えてきた面も見逃せない。