過熱する米中対立の「最前線」~BS-TBS報道1930の石垣島リポート

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自治体にできることは限られている

中国の実際の行動も、対する日本の政治家やメディアの報道も、「台湾有事が…」とその論調をエスカレートさせる中(もちろん私が担当している番組もそのことを否定できない)、島民たちは賛成派、反対派にかかわらず、漠とした不安を抱えている。何か事が起きた際、ミサイル部隊の存在ゆえに、島が「標的」になることはないのか。避難経路が限られる島で住民の安全は本当に守られるのか。太平洋戦争で、石垣島は沖縄本島のような地上戦はまぬがれたが、空港や軍事施設は空襲や艦砲にさらされ、その記憶は今も残っている。

戦時中に砲弾を受けた軍事施設

2004年に施行された国民保護法に基づき各自治体は、外国からの武力攻撃や大規模テロが発生した場合、国からの「指示」を受け、住民の「避難」「救援」「被害の最小化」を担う「国民保護計画」を事前に作成することが義務付けられている。石垣市のホームページを見ると、「石垣市国民保護計画」を2013年3月に作成、2019年4月に一部変更とある。しかし、「島外への住民の避難」に関しては、「避難施設に集まり空港や港から沖縄本島に避難する」というイメージ図と、「必要な措置を講ずるものとする」という文言が何度も羅列され、具体的な中身を知ることはできない。

実際にどのような想定をして住民を守ろうとしているのか。石垣市の担当者を訪ねた。11月、落成式が行われたばかりの石垣市の新庁舎は、世界的な建築家として知られる隈研吾氏が設計に携わった。幾重にも重なりあった赤瓦の大きな屋根は、まるでリゾートホテルのようにも見える。総事業費は2年分の税収に当たる100億円超。市役所に向かうタクシーで運転手は、「こんな小さな島には高すぎる」とその金額が島民の中で問題になっていることを嘆いていた。

石垣市の新庁舎

「まだ真新しい庁舎に慣れなくて…」と取材に応じた石垣市の防災危機管理課の担当者は、ミサイル攻撃に対する住民保護の難しさを隠すことなくこう説明した。

「シェルターがあるわけでもない。大きな地下街があるわけでもない。私らは防災の専門ですけど、防災の観点とは全然違う。住民を一か所にまとめても、こんな小さな島みたいなところでは避難するところが無いに等しいので…」

有事の際の住民保護に関して、避難場所や搬送手段をすでに策定し、航空会社や民間のバス会社などと協定を結んでいるが、住民感情に配慮して非公開にしていることや、5万人近い住民が、もし全島避難になった場合、空港が使えたとしても1か月ほどかかる想定になっていることを、担当者は明らかにした。

ただ、市の担当者は自治体にできることは限られていると、何度も「国の責任」を強調した。

「私たちは国から避難指示が出て、どこの住人をどうしなさいときたら、それを的確に実行できる準備だけはしますよ。できる、できないの問題ではないのでやらなきゃいけない。だから、搬送手段とかは、国がやっていただかないと、一市町村でできることではない。飛行機何便用意してくれるのか。何人分用意してくれるのか。受け入れ先もありますよね、鹿児島なのか、宮崎なのか。この5万人近い人は、どこに、どこで、どうしてくれるのかっていうのも、私たちがじゃあ今、その県と打ち合わせて準備するんですかって、そんなことないですよ。国がやってくれると思うんです」

まず第一の避難先と想定する沖縄本島が同じように有事に見舞われたらどうするのか、1万人近い観光客の避難はどうするのか、竹富島や西表島など離島から石垣島に避難してくる住民たちにはどうするのか、懸念は尽きない。

「国防は国の専権事項」と繰り返し、自衛隊の受け入れを決めた石垣市の中山義隆市長は、「住民の避難をどう考えるのか」と議会で問われ、こう答えた。

「石垣島で(自衛隊が)住民を置いたまま、戦闘に入ることはないと考えている」

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