「1人1人の命の尊厳について真剣に考えているとは思えなかった」
「きょうはどんな思いで参加したんですか」
新聞の告知を見て参加した島民に率直な気持ちを聞いてみたいと思い、視察現場の移動中などに声をかけてみたが、皆一様に口が重い。テレビカメラを持って東京から取材に来た私たちに対し、避けるそぶりを見せる人たちも少なくなかった。なんとかお願いしてインタビュー撮影に応じてくれたのは冒頭で紹介した高齢の女性ただ一人。生まれ育った小さな島だからこその複雑な事情を語ってくれた。
「やっぱり子どもが市役所に勤めているとか、教員だったりとか、警察官が親戚にいるとか、土木に関わってる人がいるとか。(自衛隊の配備に賛成か反対か)はっきり態度を示したら、まずくなるような人が多いから、みな思っていても反対できない人たちがたくさんいる。でも今、こうやって着々と工事が進んでいるから、今はもうあきらめムード。もうダメなんじゃないと」
女性は、沖縄の独特の語尾が上がるイントネーションで、こう続けた。
「住んでいたら大きく感じるけど、小さな島ですよ。台風だけでも牛乳がない食料がないとなるのに、もしも戦争になったら、沖縄戦のような惨状が…、そういうのを考えると怖いのに…、とっても怖いですよ」
台湾や尖閣諸島に近く、まさに「最前線」に位置する石垣島では、実際の脅威を肌で感じてか、漁業関係者をはじめミサイル部隊の受け入れに前向きな人は少なくない。地元経済界と一緒に自衛隊誘致を進めてきた島の重鎮は、カメラが回っていないところで「反対しているあいつらは、どうせ内地の人間だ」と突き放すような言葉を口にしていた。確かに表立って自衛隊の配備に反対しているのは、島に移住してきた人たちが多い。しかし、彼らはしがらみのない自分たちが代わりに声を上げるしかないという思いを持っていた。島の自然に魅了され18年前に岐阜県から移住してきた木方基成さんも、その一人だ。木方さんが持つ農園は駐屯地に隣接していて、取材に訪れた日も工事の音が激しく響いていた。
「本当にコミュニティが小さいし、色んな付き合いがあるから、政治的な考え方を言うのは角が立つ場面が多くて、だから逆説的に基地を作りやすいってことにはなるんですけど。でも僕は内地から来てるから、自分はそれを引き受けようと思って」
木方さんは4年前、自分の土地が駐屯地の建設予定地に組み込まれていることを、新聞で初めて知ったという。事前の報告も、十分な説明も無い政府の対応に不信感を募らせ、土地の売却を断った。結果、木方さんの農園は、駐屯地に取り囲まれる格好になっている。
「『安全保障のために協力してください』それによって、どういう危険が伴うかの部分は説明してないわけですよ。『安全保障、安全保障』と、政策を進める人たちが、1人1人の命の尊厳について真剣に考えているとは、僕は思えなかったですね」
「基地」をめぐり、賛成派、反対派が対立し合う構図が、この小さな島でも繰り返されている。