沖縄のアイデンティティ
米軍基地問題で政府と対立し、2018年8月に亡くなった沖縄の翁長雄志前知事は、その著書『戦う民意』(角川書店)の中で「基地問題を解決しなければ、日本が世界に飛躍できない。沖縄の民意を尊重せずして日本の自立はない。沖縄のためになることは日本のためになり、さらには世界のためになる」と述べている。
さらに、「離島である沖縄は、海で四方が閉ざされているのではなく、海で諸国とつながっているという世界観を持っています。そして、沖縄戦という未曽有の体験を経て、平和に対する絶対的な願いを持ち続けています」とも述べている。
これらの毅然とした翁長氏のメッセージからは、まさに政治家のイデオロギーというよりも沖縄のアイデンティティが伝わってくる。
翁長氏の遺志を継ぎ、辺野古基地建設に反対する玉城デニー知事は、沖縄の歴代知事選で最高得票数となる39万6,632票を獲得した。また、玉城氏は辺野古基地建設の是非を問う県民投票を実施し、知事選を上回る43万4,273票の辺野古基地建設への反対票を得た。
それでも政府は辺野古への土砂投入を止めるどころか、再三にわたる玉城氏の申し入れにも関わらず、これらの結果を完全に無視して埋め立て工事を続けている。
現政権の沖縄に対する態度は、政権発足以来一貫して冷淡かつ強引だ。翁長氏は、政府や本土の人たちとの意識の擦れ違いの根深さ、どうにも埋まらない溝についての沖縄の人たちの感覚を、「魂の飢餓感」という言葉で表現していた。
基地負担に関して、「振興予算をもらっているんだから文句を言うな」という論調も根強いが、これほど沖縄の人たちの尊厳や誇りを傷つける言い方もないだろう。
玉城知事は、政府との対話を重視する姿勢を崩してはいないが、ゼロ回答を続ける政府に対して「歴史を振り返っても、為政者が『この道しかない』という姿勢で突き進んだ結果、国民が大きな被害を被ったり、社会への悪影響が広がったりということは多かったように思う」と述べている(AERA4月1日号より引用)。
日本全体で沖縄が抱えてきた負担や苦悩にあらためて心を寄せ、その負担や苦悩を沖縄だけに押し付けるのではなく、日本全体で分かち合っていく以外に、基地問題の解決も日本の安全保障の前進もない。
本土に暮らす者が沖縄のことを語るのは簡単ではないしおこがましくもあるが、沖縄の実情を自分事として捉える姿勢と行動こそが、平和国家としての日本の未来を揺るぎないものとし、世界における日本の立場と役割を明確にしていくことになるのではないか。
【本稿は2018年9月13日公開の『現代ビジネス』原稿を加筆・再構成しました】