モンパチの曲はなぜ沖縄で生まれたのか~「小さな恋のうた」が描くリアル

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沖縄の小さな町で活躍する高校生バンドがいた。中心は佐野勇斗(21)演じる主人公でボーカルの真栄城亮多(まえしろりょうた)だ。彼らのシンプルで力強い歌は東京のレーベルからも注目が集まるほどだった。

ある日、バンドの楽曲を手がけていたギターの譜久村慎司(眞栄田郷敦(まえだごうどん))を突然の不幸が襲う。失意の中、空中分解しかけたバンドは新たなメンバーを加え、慎司が思いを寄せていた米軍基地内に暮らす少女に、あるメッセージを届けるべく活動を再開する。

タイトルは沖縄を代表するロックバンド、“モンパチ”ことMONGOL800の大ヒットアルバムの収録曲から。劇中でバンドが演奏する曲もすべてモンパチの楽曲だ。沖縄出身のプロデューサーが、2011年に立ち上げた企画が作品のベースになっている。徹底的に描かれるのは、彼らの青春だけではない。タブー視されがちな沖縄のリアルだ。

基地と街を隔てるフェンスがあり、亮多の母親はシングルマザーで米軍相手の飲食店を切り盛りする。慎司の父親は米軍基地で働く。そこに息子に不幸を招いた車は米軍基地の車両であるという情報が飛び込む。

監督の橋本光二郎(45)は「この映画の最大のテーマはMONGOL800の曲がなぜ沖縄で生まれ、なぜ歌い続けられているのかです。彼らの音楽には世代を超え、国境も超えていく強さがある。彼らの音楽をフィーチャーする以上、基地を描くことは必然でした。出てこないのは嘘っぽくなるからです。だからといって過度に政治的に捉えてほしくはありません」と語る。

その理由はこうだ。映画の中で象徴的に映し出される「フェンス」は、大人たちが歴史のなかで作り上げてきた「問題」を象徴するものである。いまを生きる若者は、いつの時代も大人に作られた理不尽な壁を壊そうとエモーショナルに叫び、分断線を乗り越えていこうとする。

「そこにあるのは青春映画にある普遍的なテーマなんです。大人はわかってくれないと言いながら、いつの時代も、世界のどこにも音楽で社会と関わっていこうという若者はいて、彼らは熱い思いをぶつけてきた。抱えている問題と真剣に向き合うことで、強くなっていくんです」

素人同然だった若い俳優たちも、それぞれの楽器で練習を重ね、バンドとして一体感を増していく。沖縄の高校生らがエキストラとして参加し、映画のハイライトとも言えるライブシーンを支えた。

「若者が一生懸命に歌う姿はそれだけで心揺さぶるものがあります。沖縄特有のノリがバンドを後押ししてくれました」

バンドが大切に演奏する楽曲の一つが「あなたに」だ。本当に会いたい「あなた」、音楽を届けたい「あなた」は誰なのか。それが明確になった時、音楽は小さな島に残るあらゆる壁を取り払う。

モンパチのロックが持つ強さを肯定し、沖縄に残る矛盾をも描き出す快作が誕生した。

<<◎「小さな恋のうた」企画・プロデュースはモンパチの高校時代の後輩でもある山城竹識。5月24日から全国公開>>

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