本土紙記者が、沖縄の地元紙記者をして見えてきたこと

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海の「嘆き」の音

 

辺野古の新基地建設現場にも月1度ほどのペースで入った。船で沖合に出て護岸工事の埋め立て現場に行くと、間近でクレーンが砕石を海に投下する。水しぶきがあがり、低く鈍い音が胸の奥に響く。海が徐々に壊されていく「嘆き」に聞こえた。あの鈍い音が、何回続いたときに、この海は本当に死んでしまうのだろう。カヌーで抗議する人が護岸に近づくと、海上保安官たちが即座に拘束した。

米軍キャンプ・シュワブのゲート前では、工事車両の進入を阻もうと座り込む市民を、機動隊が羽交い締めにして強制的に「排除」する。「痛い、痛い」と叫びながら連れて行かれる様子は、民主化の進まぬ異国のようで、これが現在の日本で行われていることかとがくぜんとした。

現在は護岸工事の埋め立てが進むが、護岸が海を囲む形で完成すると、今夏にも護岸で囲まれた内側へと土砂の投入が開始される見通しだ。1996年に辺野古が移設先に浮上してから20年余。これまでの護岸造成から土砂投入の段階へと進むこの局面こそ、とうとう「ポイント・オブ・ノーリターン」となってしまうのではないか。

名護市長選の衝撃

 

「基地なんて無いほうがいいに決まっているさ。だけど苦渋の決断なんだ」。今年1月、辺野古で駐車場にテントを建てて開かれた地区の新年会で、酒を酌み交わす地元区民に交ざって話を聞いた。

「発展するのは市の西海岸ばかりで、東海岸は下水道も整備されていない。基地は市長が何を言ったってできるよ」。辺野古でも積極的に「基地があったほうがいい」と言う人はいない。だが「普天間から移さなくてはいけないなら、どこかが引き受けなくてはいけない」と語る言葉が、重く響いた。

名護市長選では、同市に1カ月間住み込んで取材にあたった。結果は新基地反対を掲げる現職の稲嶺進氏が敗れ、政府与党が推す新人の渡具知武豊氏が約3400票差という予想外の大差で勝利した。

投票率が前回より微増した上でのこの大差は、移設阻止を訴える翁長知事ら「オール沖縄」勢力にとって「完敗」としか言いようがない。今回、新人の推薦に回った公明党の支持層だけでなく、これまで稲嶺氏に投票していた人たちの一部が、今回は渡具知氏に投票したことを表している。また出口調査によると、特に20代、30代の若年層が新人に投票した。

そこには「地元が反対したところで、どこまで止まるのか。延命策でしかないのでは。それだったら国と話ができる市長を」との思いで、一票を新人へと託した市民の判断があったのではないか。

 

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