「安保の無銭飲食」の罪と向き合う

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「もし土地が軍事目的で求められるとなると、代わりに使える土地を見つけるのが困難となる。琉球の人々の感情に配慮して対応してもらいたい」(筆者訳)


 1957年6月21日に行われた日米政府高官の会談議事録だ。米国の公文書館で入手した。発言の主は岸信介総理大臣。当時、日米の力の差は今の比ではなく、沖縄はまだ米政府の施政権下にあった。

そうした中で、岸は、沖縄の問題は日本の問題だと主張して沖縄への配慮を求めたわけだ。
 県民投票以後、この62年前の発言を思い出している。きっかけは、普天間第二小学校の投票所で次の言葉を耳にしたことだ。

「政府は安保の無銭飲食だ」

投票を終えた53歳の男性の言葉だ。自分は保守だと話した。「日本を守る上で重要な日米安保を、政府は、本土は、沖縄の負担で享受している」。それは「無銭飲食」だと指摘した。

岸は、このままだと政府が「無銭飲食」の常習犯になることを憂慮したのではないか。そう感じた。
 この「無銭飲食」をYahooニュースに書いたところ、多くの批判が寄せられた。「3千億円返してから言え」という言葉もあった。交付金を払っているではないかとの主張だ。そもそも交付金とは沖縄県民を含む日本国民が負担している税金の再配分でしかないのだが、ここではそれにはあえて触れない。この「無銭飲食」とは、金のことを言っているわけではないからだ。

あの岸が理解していたことを、今の本土の人は理解できなくなっている。

沖縄国際大学の野添文彬准教授は、「岸が特別だったわけではない。当時は本土のいたるところに米軍基地があり、本土の人の多くが米軍の負担感を共有していた」と話している。

普天間飛行場の問題を本土のテレビで語ると、「沖縄の気持ちはわかるが、辺野古以外に解決方法はない」と話す識者がいる。

本当にそうなのか?

私は、「無条件での普天間の撤去」が現実的とは思わない。しかし、本土の自衛隊基地に統合することは可能だと思う。それは安倍政権の安保政策とも矛盾しない。

当然ながら、岸は安倍晋三総理の祖父だ。尊敬してやまないとされる。岸が米国に求めた沖縄県民への「配慮」はもちろん、無銭飲食の罪も理解できないはずはない。

筆者への意見や質問は以下のアドレスへ。

tateiwa@seedsfornews.com

【本稿は37日付『沖縄タイムス』寄稿記事を転載しました】

 

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