それは私にとっては、過去のいまいましい記憶についての告白だ。23年前のことだ。
「普天間基地返還で合意」
NHK記者として沖縄に駐在していた1996年4月12日、宿泊先の東京のホテルで日本経済新聞の1面を見て絶句した。
前夜に放送した「クローズアップ現代」では、普天間基地が返還されない理由を政治部記者がこまごま説明していた。私はその番組に沖縄局から参加していた。すぐに、沖縄駐在の米国次席総領事に電話を入れるとこう言われた。
「きのうの番組はとても面白かった。が、とても間違っていた」
「普天間は返還されるのか?」
「橋本総理とモンデール大使が会見するはずだ」
「ところで……」と次席総領事は続けた。
「プルーアがそう君に言ったのに、なぜ番組で使わなかったんだ?」
呆然とする私の頭に、「プルーア」の名前がこだました。ジョセフ・プルーア提督。当時の米太平洋軍司令官、アジア太平洋地域の米軍の最高責任者だ。
実は、私はこの司令官に、彼が沖縄に立ち寄った際、米軍に身柄を拘束されるのを覚悟でカメラマンと突撃インタビューを行ったのだ。
「普天間の返還に米軍は応じる用意はあるのか?」
米軍の屈強な兵士に取り押さえられながらマイクを向けると、プルーア司令官は部下を制して次のように答えた。
「我々が必要なのは普天間の機能であって普天間ではない」
「つまり返還に応じる?」
「我々に必要なのは機能だ。普天間ではない」
その場にいた次席総領事が言う通り、これは米軍トップが普天間基地の返還に応じると明かしたスクープ……になるはずだった。しかしそうはならなかった。使えなかったからだ。
もちろん、私としては、このインタビューを軸に、普天間基地の返還の可能性を探る内容をくだんの「クローズアップ現代」の制作で主張した。しかし、日本政府を取材する政治部記者からの反論はすさまじかった。防衛庁(当時)から入手したという分厚い資料を持ち込んで、普天間基地が絶対に返還されないことを力説。新人記者だった私にはあらがう術はなく、結果、番組は「普天間基地は返還されない」という内容となった。
その資料に書かれていた内容を要約するとこうだ。
普天間基地は有事の際に、戦車を載せた大型輸送機が離着陸できるよう滑走路が極めて厚くできている。それに代わる施設は他には造れない。
今、辺野古に建設が予定されている基地が既にこの要求を満たしていないことは明らかだ。つまり、この説明は虚偽だった疑いが極めて強い。つまり、我々はこの番組でフェイクニュースを流したわけだ。
今、私は政治家の発言などをファクトチェックすべきと言っているが、ここに自らフェイクニュースを流した過去を明かさざるを得ないのは慙愧に堪えない。
だから言いたい。政府は、これ以上、マスコミを使って嘘の情報を流すのをやめるべきだ。そしてマスコミも、政府の情報をうのみにして流してはならない。特に、「辺野古が唯一の解決策」などという政府の「標語」を安易に使ってはいけない。これは事実とは言えない。大切なのはファクトチェック、事実の検証だ。
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【本稿は日刊ゲンダイ連載「ファクトチェック・ニッポン!」(2018年9月5日付)を一部編集の上、転載しました】