県知事選下の沖縄島をめぐる

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コロナ禍の経済疲弊、基地被害、そして戦争の脅威──。不穏な空気に覆われた沖縄で9月11日、県知事選が投開票される。住民は何を思い、未来に何を託すのか。沖縄本島を回った。


沖縄県知事選が告示された8月25日、沖縄戦最後の激戦地・糸満市にある「ひめゆり平和祈念資料館」は静寂に包まれていた。館は2020年に始まったコロナ禍で経験したことのない打撃を被った。

「開館から31年。これほど閑散とした館内を見たのは初めてでした」

 こう振り返るのは8代目館長の普天間朝佳さん(62)だ。

 太平洋戦争末期、「ひめゆり学徒隊」と呼ばれ、看護要員として動員された生徒や教員は240人。そのうち136人が命を落とした。悲劇を後世に伝えようと、ひめゆり同窓会が奔走し、1989年に建てられたのが同館だ。普天間さんが戦後世代初の館長に就任したのは2018年。戦争体験者が減るなか、沖縄戦の悲劇や教訓をどう伝えるか、という課題と向き合う日々に突如、コロナ禍の試練がのしかかった。

 入館料収入は20年度に前年度比84%減まで落ち込んだ。公的補助を受けず、運営費の約8割を入館料収入で賄ってきた館は存亡の危機に立たされる。渦中の昨年4月、コロナ禍の影響で予定より遅れていたリニューアルに踏み切った。戦争体験のない世代に伝わる展示への切り替えをこれ以上、遅らせるわけにはいかなかった。「戦争からさらに遠くなった世代へ」というテーマで、イラストや写真、映像をふんだんに用い、分かりやすい展示に刷新した。だが、入館者数の低迷はその後も続いた。

 この窮地を救ったのは全国からの寄付だった。昨年6月、公式ツイッターで運営の危機を訴えると、この月だけで約1900万円が寄せられた。今年7月末現在の総額は約9500万円に上る。とはいえ、寄付で賄えるのは運営費の6割程度。今年4月以降の入館者数はコロナ禍前の45%まで回復したものの、低利子融資や貯蓄の取り崩しで綱渡りの運営が続く。

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