祖母から連なる歴史
宮里は「勉強が嫌い」で高校をさぼって書店に入り浸り、卒業後そのまま書店員になった。36歳になった今も政治的な関心は高くない。熱心にニュースをチェックすることもなく、新聞は職場に置いてあるものを流し読むくらいだ。県民投票をめぐって、ハンガーストライキがあったことも知らない。
「基地の話は友達とはやりにくいですよね。やっぱり複雑だから」と宮里は言う。仕事が長引き、日付が変わろうという時間に帰宅する。歩いている道で米軍車両に追い越されるとき、怖さはどうしても感じてしまう。もうこれ以上の基地は要らないだろうと思う一方で、基地で働いている人の仕事はどうなってしまうのか。そう考えると、口には出せなくなる。
自分から積極的に声を上げようとは思わないが、意思を示す機会があれば行く。それが彼女のスタンスだ。
ここまで話を聞いて、彼女の言葉を支えているのは、強烈に感じている家族の歴史だったことが分かる。今、なぜ自分がここにいるのか。戦争を生き延び、戦後を生き延びた祖母から連なる歴史だ。
彼女は『宝島』を読んで、歴史を自分のものにした。「私が記録の世界だと思っていた戦後の沖縄は、おばあちゃんが生きてきた時代」なのだと。
宮里が働く書店では、面白いことに基地問題について書かれた本は政治的な立場を問わず、同じように売れていく。ある女性客は彼女に「自分と反対の意見も知らないといけない」からと言いながら「賛成派」が書いた本を手に取る。「辺野古の写真を撮ってきた」と写真を見せてくる人、「基地がないと大変なんだから」と言いながら本を買っていく人……。こうして、気が付いたときにはどちらも入荷分が棚から消えていく。「だから、どっちの意見も大事なんですよね」
自宅があるうるま市から那覇まで通う1時間半のバスの中から、いろいろな風景が見えるという。路上から基地も見える、観光地も見える、そして車内には県民投票の広告も見える。そんな日常の延長に彼女の思いもある。
投票に行くという。言いたくなければ言わなくていい、と前置きして何に投じるか聞いた。数秒の沈黙のあと「うん……。誰かと討論するわけじゃないですからね」と自分を納得させるようにつぶやき、こう続けた。「今回は反対に入れるつもりです」と。