「砦」は守られるのか~『ニュース女子』に関するBPO意見を読み解く~【上】

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<沖縄の米軍ヘリパッド建設への抗議活動を批判的に取り上げた東京メトロポリタンテレビジョン(MX)の『ニュース女子』沖縄基地問題特集(201712日放送)をめぐって、BPO(放送倫理・番組向上機構)放送倫理検証委員会は171214日、事実関係の誤り、裏付け取材の欠如、不適切な映像使用、侮蔑的な表現などを挙げ、「MXは放送してはいけない番組を放送した」とする意見書を公表した。意見書は、テレビ局が放送番組を自主チェックする「考査」を最後の「砦」と表現し、本件放送において「砦は崩れた」と指摘している。崩れた砦を再構築するために守られるべき放送人の矜持とは―。沖縄で基地反対運動にかかわる人たちだけでなく、抗議行動を非難する側も取材してきた毎日放送(大阪)の斉加尚代ディレクターに寄稿していただきました>

 

基地反対運動を「嗤う」装置

 

2017年夏、沖縄を取材した2つのテレビ番組を観る学習会が立教大学で催された。

「思わず笑っちゃったんです。思わず」。ひとりの男子学生がすまなさそうに言った。

学生が‘笑った’番組は、東京メトロポリタンテレビジョン(MX)の『ニュース女子』沖縄基地問題特集(同年12日放送)。学生は続いてこうも言った。

「でも笑っちゃダメだって気づいたんです。隣の人たちが物凄く怖い顔で画面を睨みつけていて」。隣の人は沖縄生まれのおじいさん、おばあさんだろう。会場には沖縄出身者が多くいた。

画面に基地反対運動を侮辱する表現が映し出されていた。そうとは知らず笑って見ていた学生。だが周囲の強張った表情を感じ取り、笑えなくなったのだ。私はこの学生に感心した。そして救われる思いがした。というのも、その番組は基地反対運動を徹頭徹尾、嘲り(あざけり)嗤う(わらう)装置として制作され、水面下に満ちた根深い悪意をあざとく隠していると確信していたからだ。

 

BPO「放送してはいけない番組」

 

その番組が放送されてから1年近くが過ぎた1214日。東京の千代田放送会館でBPO(放送倫理・番組向上機構)放送倫理検証委員会が、『ニュース女子』沖縄特集に関する意見を公表した。私はこの日、初めてBPO会見を取材し、配られたばかりの意見書をめくった。

書き出しは東京MXがホームページに載せる番組紹介文。「物知りな男はカッコいい!ここは、ニュースを良く知る男性とニュースをもっとよく知りたい女性が集う、大人の社交場」。番組のテイストは情報バラエティー、笑いを引き出すテクニックはお手のものだ。実際、時事問題に長けたコメンテーターの男性陣が世間知らずにみえる若い女性たちに教えてあげる演出がされ、男性の話を聴く女子たちは「へ~そうなんですかあ!」と声高に相槌を連発する。

問題の特集は軍事ジャーナリストI氏が‘マスコミが報道しない真実’と題し、沖縄・東村高江などで抗議活動中の「基地反対派は過激で危険」とリポートするVTRを流してスタジオトークを繰り広げた。たとえばI氏が「(沖縄で)大多数の人は、そんな米軍基地に反対という声なんて聞かないんです」「そうなんですか!」といった具合に。

東京MXは制作自体にタッチせず、スポンサーの化粧品大手DHCが、その傘下にある制作会社「DHCテレビジョン」(番組放送当時「DHCシアター」)を使って完成させた作品(完パケ)を納品する、いわゆる「持ち込み番組」だ。

沖縄の現場を何度も取材してきた私は、BPOがどのような判断を下すのか不安だった。「東京MXは放送してはいけない番組を放送した」、BPO倫理検証委が会見でこう断じたとき、ようやく不安は霧消した。その意見書はMX側の放送前「考査」が不適切で、「重大な放送倫理違反があった」と厳しく批判していた。審議は10か月に及び長く感じられたが、BPO倫理検証委は手足をもがれた状況だったと言える。

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