民放連とNHKが設置した第三者機関のBPO。放送の自律を守るための機関は放送局への調査権限をもつが、加盟社ではない「DHCテレビジョン」に権限が及ばない。MXを通じ「DHCテレビジョン」に聞き取りへの協力を求めたが拒否された。手足となって動くことを期待されたMXだが、拒否理由も説明しない。
BPO委員は制作者へのヒアリングが出来ない時点で考えたのだろう。委員2人が2度にわたり沖縄の現地へと赴き、自ら手足を駆使した独自調査で、考査対象となる番組が、事実に基づいた内容であったかどうかを丹念に調べ上げた。
その結果、反対運動が「過激で危険」などと伝えたその根拠が不十分で多くが客観的事実に基づかないと認定した。番組で伝えられた「反対派が救急車を妨害した」のも完全なデマだった。BPOが指摘した考査における倫理違反6点について詳細は省くが、「抗議活動を行う側に対する取材の欠如を問題としなかった」「侮辱的表現のチェックを怠った」の2点について私はこだわりたい。
取材の欠如というよりも…
BPO意見書を通読し驚いたことがある。『ニュース女子』取材チームの沖縄滞在日数がわずか2泊3日、リポーターI氏に至っては1泊しかせず、1日目午後の打ち合わせから2日目午後2時ごろの帰京まで正味8時間ほどの撮影時間しかないのだ。
リポートに立ち寄ったポイントは7つある。①名護市米軍キャンプシュワブ前反対派テント②二見杉田トンネル③辺野古の高台④名護警察署裏の名護湾と同警察署前⑤那覇市牧志駅前⑥宜野湾市嘉数高台公園⑦普天間基地野嵩ゲート前。
車での移動や機材の準備時間を含めてひとつの場所に平均1時間もいないだろう。ポイントごとに取材相手とのやりとりやリポート、インタビュー等をスピーディーに収録したはずだ。彼らが問題視した米軍北部訓練場のヘリパッド(ヘリ着陸帯)建設が進む東村・高江の現場へは那覇から車で片道3時間かかる。取材に費やす時間とエリアの広さを考えると、『ニュース女子』チームは当初から高江に行くつもりはなく、取材するつもりもなかったとしか思えない。
BPOからの質問に対し制作会社は約20ページの回答書を提出した。その記述には首を傾げたくなる箇所がある。たとえばスタッフ2人が「ヘリパッド建設現場に近接する高江共同組合周辺に赴いた」際に、「カメラを取り上げて持ち出そうとしたら、ウワッと(反対派の)車が挟み撃ちをかけて来たんで、彼はとっさに逃げた」とのことだが、疑問だ。
高江共同組合は地元住民が利用する売店で、反対派と機動隊がにらみ合うゲート前から相当距離がある。抗議する住民が多数いることはほぼない。そこには、‘マスコミが報道しない真実’を伝えるといった真摯な取材姿勢とは真逆の、悪意や意図があった、としか思えない。取材の欠如ではなく、意図的ネグレクトだ。
BPO意見書は、基地反対運動の参加者が「日当」を受け取っているかのような伝え方をした点についても問題視した。「裏付けを確認しなかった」と日当の支払いを事実とみなすには根拠が不十分と認定したのだ。
付け加えれば、沖縄地元紙が高江の住民を直接訪ねたアンケート調査で、80%がヘリパッド建設に反対で、その他(どちらでもない、分からない)が20%、賛成はゼロだった。
‘名ばかり取材’ともいえる情報番組が今や地上波テレビの常識になりつつあるのだろうか。そうは思いたくない。(以下、【下】に続く)