砦が崩れたら、あらたに築く
これまで述べてきたようにBPO意見書は、一義的にはあくまでMXの考査のあり方を問題としたものであり、基地反対運動への憎悪や運動する県民たちへの侮辱的な態度に貫かれた『ニュース女子』という番組の底に流れる意図(悪意)については直接には触れていない。この点を不満だとする声も聞かれる。確かに私もこの点は抑制的だとも感じる。
だが、BPO放送倫理検証委員会は、それを十分承知した上で意見書をまとめたと考えたい。MXとDHCの深いつながりや力関係をそこに書き込まなかったのは、経済事情とは別のところに番組考査が存在すること、その意義を噛みしめてくれというメッセージと思えてならない。
「考査」は放送倫理を遵守する放送における最後の「砦」と意見書は述べている。「放送の自主自律を守る」「放送の矜持を守る」ための極めて重要な砦。砦が崩れたら、あらたに築かなければならない。
フェイクやデマが当たり前のように飛び交う新しい時代に突入している。砦への想像力を最大限発揮し、放送各社に揺るぎない確かな砦を維持する努力を尽くすようBPOは促しているのだ。それは経済原理とは次元を異にする、人々の暮らしや命と深く結びついた放送本来の責務だと思う。
基地被害に苦悩する沖縄県民を想像しつつ、基地問題を我が事に引き寄せる感性を東京で出会った普通の男子学生が持っていた(【上】の冒頭で紹介)。放送人であればなおさら持っていると信じたい。(了)
(編者注)…東京メトロポリタンテレビジョン株式会社の有価証券報告書によると、2016年度の約182億円の販売実績中、DHCは最大の11.5%(約20億円)を占め、2位(5.1%)の倍以上にのぼる。