そういえば、韓国にも「ポーク」があった。この夏訪れたソウルのコンビニで、「あらま」と膝を打った。スパムの商品名で知られるポークランチョンミート。このサイトをご覧になる多くの方には説明不要だろうが、ソーセージの中身をコンビーフのように詰めた缶詰だ。沖縄では「ポーク」の略称で通る、チャンプルーやポーク卵など、さまざまな料理に使う、あれである。
ポークを食べる軍事的要衝
ポークが、韓国でも普及しているのは、むろん、朝鮮戦争とその後の米軍の駐留のせい。沖縄同様、米軍の食料だったものがさまざまな形で多くの人の口に入り、定着していった。韓国のスパムは、プデチゲの具の定番になっている。プデチゲは、スパム以外にソーセージ、ハムを野菜や餅と煮る鍋料理。沖縄で似たものを探すと、鍋とどんぶり、辛い辛くないの違いはあるが、「みそ汁」だろう。いずれにせよ、ジャンクで、うまい。韓国にはプデチゲの出汁に添加物不使用などとうたう店があったり、日本でもプデチゲのソーセージは韓国から米国産を輸入する店があったり。専門店にはよく考えるとよく分からないこだわりもあるようだ。なお、韓国にもポーク卵に相当する料理があり、こちらは溶き卵をポークに絡めて焼くらしい。
余談だが、今のプデチゲはインスタントラーメンを入れることが多い。韓国で自国製のインスタントラーメンが発売されたのは1963年以降(日本の5年遅れ、沖縄のオキコラーメンよりは3年早い)のようなので、プデチゲがラーメン入りになったのも、それ以降だろう。プデチゲに限らず、韓国では生麺や乾麺のラーメンがなぜか普及しないらしく、店で出すラーメンがしばしばインスタントなのが、ちょっとおもしろい。
プデは「部隊」の意味だから直訳すれば部隊鍋になる。南北分断を背景にした韓国映画「鋼鉄の雨」で、北朝鮮から来たエリートが、ソウル市内のプデチゲ店が並ぶ通りで、「こんなに部隊を集結させているのか」というような感想を漏らしていた。
高度成長以前の韓国は「(朝鮮戦争の)巨大な『難民キャンプ』」、北朝鮮は今も昔も「兵営国家」。盧武鉉政権で閣僚も務めたユ・シミンが『ボクの韓国現代史』(萩原恵美訳、三一書房)で、こう表現していた。「難民キャンプ」で生まれた料理の店を、「兵営国家」の住民が「兵舎」と誤解するのも、おかしくはないのだろう。
ともあれ、韓国と沖縄では、昔から豚を食べていたなど、そもそもの食文化の共通性もあるけれど、太平洋戦争から冷戦期に日本本土の「盾」となった地域で、同じ米国の食品が定着したことの意味は、何度でもかみしめるべきこと、と思う。日系(沖縄系)人が考案したスパムむすびのあるハワイも合わせて、ポークを食べる軍事的要衝が日本本土を三角形に取り囲んできたとも言える。