沖縄に於ける、おかず、みそ汁、ご飯

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なぞの「みそ汁定食」

 

初めての沖縄観光も数日目。観光客向けの「郷土料理」に飽きて、たまたま行き当たった大衆食堂に入る。壁に並ぶお品書きの短冊を眺めて、「おかず」「みそ汁」といったメニューに、「??」となったことがある人は少なくないだろう。少なくとも、私は「??」となった。前者は意味不明、後者は一杯の値段が600円だったり(もちろん、料亭とかの高級なみそ汁ではない)。

あるいは、沖縄の店で「ぜんざい」や「ちゃんぽん」を頼むと、本土のそれとはほぼまったく違う料理が出てきて、面食らう。揚げ物や肉料理が山盛りの「大人のお子様ランチ」に「Aランチ」なる固有名詞があったり、「おでん」や「カツ丼」など、本土の同名料理から微妙にずれた中身のものもある。

今回の話のネタにしたいのは、16年前に出た本『沖縄大衆食堂』(仲村清司+腹ぺこチャンプラーズ著、双葉社)だ。おかずやらカツ丼から、ゴーヤーチャンプルーや沖縄そばなど沖縄料理の代表選手まで25品と沖縄の食文化を、「笑いのエキスがてんこ盛り」(帯の言葉)なエッセイで紹介している。料理ごとに、写真ではなく詳細な1ページイラストを載せているのも楽しい。

「よそ向き」ではない沖縄の食文化を、肩肘張らない、というか、軽妙な文体で本土向けに紹介した、おそらく初めての本だと思う。

 サブカルとしての沖縄文化論

 

本書のような、沖縄の現代生活文化を「ポップ」に取り上げる本は、89年の『沖縄キーワードコラムブック』(まぶい組著、沖縄出版)を嚆矢とする、はずである。

それまでの(今も広く流布している)代表的な沖縄イメージといえば、米軍基地と沖縄戦の「戦争・軍事」、琉球王国や御嶽に代表される「歴史・信仰」、青い海とビーチの「観光地or自然」の三本柱となるだろう。

沖縄県民の誰もが、日常でいつもこの三本柱に意識的なわけではない。そのうえで、どこの国や地域にも、元々の住民にとっては当然すぎて、「おかしさ」に気づけない生活習慣とか生活文化があるものだ。それが、沖縄は本土と「同じ日本」なだけに、ちょっと距離を置いてみると、とてもおもしろかったりする。そしてまた、背景には、沖縄イメージ三本柱のような、歴史的、あるいは政治的な何かがあったりする。

『沖縄キーワード~』は、編集者の新城和博さん(63年生まれ)ら、沖縄の若い著者たちが、こうした本土との差異を「サブカルチャー」として描き出した本だった。以後、似たコンセプトの本が一ジャンルを築いた。敢えて三本柱に結晶させない、「てーげー」な沖縄像が、「地産地消」されてきた。

『沖縄大衆食堂』は、そんな沖縄のサブカル本と、センス的には近い。「ポークランチョンミート」とか「ホリデーマーガリン」とか、米軍統治を背景にした食品の解説など、ちゃんと読めば「深い」話も多い。

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