辺野古埋め立て計画への多層的抵抗
一方、普天間基地の代替施設として大浦湾を埋め立てる日米両政府の計画に対しては、地元政治家の抵抗、補償受け取りの拒否、そして海兵隊の必要性に対する懐疑がある。
第一に、沖縄の政治家による抵抗として、歴代の沖縄県知事が代替施設建設に係る条件を付与したことである。1999年に名護市辺野古での受け入れを表明した稲嶺恵一知事は、飛行場の軍民共用化と15年の使用期限の条件を訴えた。海上施設よりも恒常的に使用できる埋め立て施設とし、民間空港として北部振興に役立てるねらいがあった。後任の仲井眞弘多知事は、2006年、一期目の公約として「可能な限りの沖合移動」を掲げた。仲井眞の任期中、09年に普天間基地の県外移設を訴える民主党が政権を獲得したが、1年経たずして元の政府案に回帰した。県内では県外移設の要求が再び高まった。この状況で仲井眞は普天間代替施設を県外に求めることを二期目の公約とした。防衛省による沖縄の戦略的重要性に関する文書に対して質疑を繰り返し、納得のいく説明を求めていた。仲井眞は13年12月、次の4つの要望を日本政府に提示した。それは、(1) 普天間基地の5年以内の運用停止、早期返還、(2) キャンプ・キンザーの7年以内全面返還、(3) 日米地位協定の条項の追加等、(4) オスプレイ12機程度の県外配備である。同月末、最終的に仲井眞は埋め立てを承認したが、その翌年に就任した翁長雄志知事は、辺野古に新基地を作らせないとして現行案への反対姿勢を明確にしてきた。このように、過去20年間の県知事は必ずしも政府案を鵜呑みにしてこなかった。
さらに、沖縄県の政治家は積極的に反基地運動の先頭に立ってきた。2012年10月、老朽化した回転翼機CH-46を垂直離着陸機MV-22オスプレイの部隊が普天間基地に配備されることとなった。開発段階から事故が多いオスプレイが普天間基地へ配備されることに対して、10万人余りが抗議した。そして翌年、安倍晋三首相宛てに「建白書」が提出された。これは、オスプレイの配備撤回と今後の配備の中止、さらに普天間基地を閉鎖・撤去し、県内移設を断念することを要求するものであった。最も重要なことは、この建白書に沖縄県の全41市町村長、議会議長及び県議会の各会派の長が署名押印していることである(ただし、建白書は普天間基地の県内移設に反対しているが、県内移設の可能性を完全に否定するものではなかった)。さらに、署名者が上京し、建白書の内容を訴えて東京でも約4,000人規模の抗議集会及びデモ行進を行った。オスプレイ配備と県内移設の拒否は、超党派で一致できる最小の合意点であり、「オール沖縄」として結束できる点であった。
第二に、関係自治体の補償拒否がある。前述の韓国の事例とは異なり、沖縄を含む日本では、以前から基地負担に対する日本政府からの補償が施されてきた。2006年のロードマップに基づいて在日米軍の再編を円滑に実施するため、翌年「駐留軍等の再編の円滑な実施に関する特別措置法(再編特措法)」が制定された。これにより、再編に協力する市町村に対して交付金の提供や公共事業への特別補助が可能となった。同法が施行された当時、名護市は普天間代替施設の受け入れを表明し、再編交付金を受け取っていた。しかし、2010年に辺野古への移転に反対する稲嶺進が市長に初当選した後、同年12月に再編交付金の支給が中断された。稲嶺市政は「再編交付金に頼らない真に豊かなまちづくり」を目指して財政の健全化に取り組んでいた。
第三に、沖縄県内では、日本政府の論じる海兵隊の必要性について疑義が生じている。日本政府は、海兵隊が沖縄に駐留する必要性として、「地理的優位性」のある沖縄から、地上・航空・兵站部隊が一体となって現場に展開できる機動力を挙げている。一方、在沖海兵隊を輸送する艦船は沖縄に常時配備されているのではなく、県外から手配される。8,000人の海兵隊がグアムへ移転されれば、沖縄には司令部機能と約2,000人規模の第31海兵遠征部隊(31MEU)が残留する。有事の際には米国本土から増援部隊を派遣し、事前集積艦と合流して事態に対処できるので、現行のような代替施設は必要ないと専門家は論じている(マイク・モチヅキ、マイケル・オハンロン、「沖縄と太平洋における米海兵隊の将来」沖縄県知事公室地域安全政策課 調査・研究班編『変化する日米同盟と沖縄の役割―アジア時代の到来と沖縄』2013年)。海兵隊の使用するオスプレイは地上戦闘部隊の兵員や物資を輸送するものであり、従来の回転翼機より速度や航続距離で優れているものの、有事の際に真っ先に投入される性質のものではないという議論もある。さらに、米国側の複数の元高官が普天間の代替は辺野古である必要はないと証言している。このような見解が県民の間で共有されることによって、普天間基地の県内移設ならびに海兵隊の沖縄駐留が支持されていないと考えられる。
ただし、日本政府も新たな対策を講じている。移転にかかる補償について、政府はシュワブ周辺の久辺3区(辺野古、豊原、久志)に直接振興費の交付を決定した。さらに、再編交付金の対象を市町村から自治会、都道府県まで拡大した。また、これとは別に、海域の埋め立てによって損害を被る名護漁業組合に約36億円の漁業補償金を支払うという契約を結んだ。ピョンテクの例と同様、移転に直接影響を受ける関係者への補償と支援を行い、さらなる法的措置を通して計画を前進させることが予測される。