なぜ基地返還は長期化するのか?【下】~韓国と沖縄における米軍再編から考える

この記事の執筆者

 

地方と中央の力関係

 

龍山基地と普天間基地の移転・返還計画の経緯の特徴をまとめてみたい。
第一に、龍山と普天間のそれぞれの移転計画は、住民生活の発展の阻害要因として返還の必要性が以前から認識されており、1990年代に米国との交渉の中で返還が合意された。しかし、2000年代に入ると、米国の世界的なグローバルな再編に組み込まれることとなり、龍山基地と普天間基地のそれぞれが、別の基地の整理統合計画とリンクされた。それによって、両基地を含め包括的に協議することになった。それぞれの移転先を確保するだけでなく、比較的重要でない他の基地の移転・返還を同時に進め、再編に付随する事項について協議もしなければならなかった。こうして、当初の合意は修正、延期された。技術的な問題だけでなく、移転に反対する市民運動も計画を滞らせる一因であった。この点は、両事例に共通して見られた。

 

キャンプ・シュワブゲート前で続く市民の抵抗運動=沖縄県名護市

第二に、両事例の進捗状況の差を生み出した要素として、補償制度の有効性と地元の抵抗力が挙げられる。移転費用やOPCONの移譲について韓米は時に対立していたが、それでも龍山の代替施設の建設が進められた背景には、新たに韓国政府が整備した補償制度がある。移転によって生活に影響を受ける住民に対するサポートやピョンテク地域の都市開発を盛り込んだ支援計画が実施された。この支援体制は沖縄の振興開発事業を参考にしたようだが、沖縄では、県内移転を認める引き換えとしての補償の有効性は現時点で限定的である。そこには、現地での不断の反対運動に加えて、政治レベルでの継続的な抵抗が見られる。

辺野古海域でも根強い市民の抵抗運動が続いている=沖縄県名護市

韓国と沖縄の違いは、地方と中央の力関係に派生するという見方がある。韓国では1990年代に地方自治が根付き始めた一方、沖縄は歴史的経緯から「独立性が高い」という(仁荷大学のNam Chang-hee教授への聞き取り、2016年)。普天間基地の移転をめぐっては、行政的及び法的な手段による抵抗は今後も続く見通しだが、日本政府も法制度を微修正しながら、補償の有効性を高め、現行計画を進めるだろう。補償に対してどれほど地元が抗い続けられるか、安定的な米軍基地の維持を可能にする国内制度がどの程度有効なのかが注目される。

沖縄工業高等専門学校は、国立 55 番目の高専として、2002 年 10 月に名護市辺野古に開学した。新基地が完成した場合、校舎が米軍機の運航の安全を規定する高さ制限を超えていることが明らかになり、関係者が懸念を深めている

 

米国の利害

 

本稿では、グローバルに展開する米軍の態勢の見直しに基づいて海外基地の再配置を決定したにもかかわらず、計画通りに進まない状況を確認した。受入国側の国内状況を概観してきたが、移転の長期化を許容する米国側の利害もあるだろう。最適であるはずの計画を推し進めず、むしろ基地受入国に任せているのはなぜか。受入国を信頼しているためか。国際環境の変化を注視しているためか。移転せずに現状のまま運用することはどれほどのコストがかかっているのか。米国の国内政治や基地に関わる国際情勢に対する認識を探ることによって、長期化がもたらされる状況を包括的に理解できるだろう。
*本稿は早稲田大学琉球・沖縄研究所『琉球・沖縄研究』第5号(2017年6月)に掲載された論文を加筆修正しました。

この記事の執筆者