【対談】長島昭久議員×屋良朝博議員~「辺野古見直し」動くのは今だ

この記事の執筆者

政権交代が取りざたされる今が大事

―「辺野古」については長島さん以外にも、元防衛相の中谷元さんが「軍民共用」や「日米の共同使用」を提案したり、石破茂さんも講演で「検証」に言及したりと自民党内で「見直し」の動きが見られるものの広がらないのが実情です。

長島 たしかに自民党内で議論は広がっていません。私もそうですが、中谷さんや石破さんも「辺野古断念」には踏み込んでいません。今の計画に少しでも疑問符をつけることへの躊躇が政府与党内には根強い。2009年の民主党政権で防衛政務官として「辺野古」にかかわった者として自戒も込めて言うのですが、鳩山政権時の迷走を繰り返すまいという意識が強いのだと思います。当時、沖縄県外への移設を模索しましたが、日米関係が悪化した上、辺野古に回帰し、東京と沖縄の関係も壊れてしまった。

―原因は何だったのでしょう。

長島 鳩山政権の挫折の要因は、日本側の準備不足にあったと思います。たしかに政権交代のタイミングは交渉のチャンスでした。当時のオバマ政権も半年ぐらいの検証期間はやむを得ないとの姿勢でした。同時に米政府は、長年、良くも悪くもズブズブの関係だった自民党が下野し、自民党批判で支持を得た新勢力が政権に就いたことで、沖縄の基地問題だけでなく日米関係がどうなるのか相当身構えていました。そこに、鳩山政権はインド洋に派遣していた自衛隊の補給艦を撤退したり、東アジア共同体構想を掲げたり、党幹事長の小沢一郎さんが600人余の訪問団を率いて訪中したり、岡田克也外相が日米の核密約を公表する姿勢を示したり、と米側にすれば不安要素をずらりと並べられた上で、基地の交渉をしますと切り出されたものだから、さすがに「乗れません」となった。鳩山由紀夫さんがすべて悪いとは言いませんが、総選挙前に沖縄で「最低でも沖縄県外」と発言したことで、期待値を下げられなくなりました。米側との信頼関係を築く前にこの発言が国内的な「公約」と捉えられ、交渉の足かせになったのは否めません。

鳩山政権で米側との交渉に携わった私は罪滅ぼしの意味も込めて、今は自民党議員の立場で何とか良い方向に解決したいと思っています。だからこそ言いたいのは、米国で政権交代が取りざたされる今が大事だということです。この時期に日米の水面下で静かに交渉を進めるべきです。これから先、沖縄の基地をめぐって交渉をするのであれば、まず米政権と信頼関係を築いた上で5年、10年というスパンでブロックを積み上げるように着実に取り組むべきです。魔法の杖を探して結局幻想に終わる、というパターンはもう絶対に許されないと思っています。

屋良 国会では辺野古の議論に誰も乗ってきません。今も「鳩山ショック」が尾を引いていると感じます。米側との交渉は「基地を返せ、移せ」といった施設面のアプローチではなく、機能面で米軍がスムーズに運用を続けられるようウインウインの関係を築ける取引材料を探るべきです。検証すべきは大浦湾の軟弱地盤対策という技術論ではなく、米軍基地の不均衡で不条理な沖縄集中をどう是正していくかでしょう。繰り返しになりますが、日本全体で日米安保の負担をどう位置づけるかが大事です。その議論の中で在沖海兵隊を国外移転させる一つの切り札になると私が考えてきたのが、高速輸送船の提供です。約10年前に海兵隊の太平洋軍司令官を取材した際、ハワイの基地内の執務室に高速輸送船の絵が飾ってありました。「海兵隊はオーストラリアの民間会社から高速輸送船を借り上げ、兵員の移動に使っているが、あと2、3隻ほしい」と彼は言いました。年間チャーター費は11億円。3隻でも33億円です。これを米側に提供すれば、沖縄の基地削減交渉の取引材料になる、と思いました。海兵隊のニーズを常に情報収集し、それに日本側から代替案をプランニングして提案する。これを不断に続ける中で沖縄への基地偏在の是正に知恵を出し合うべきだと思います。

長島 その流れで言えば、私がかねてから提案している「ホスト・リージョン・サポート」(個々の同盟国がバラバラに米軍を受け入れるホスト・ネーション・サポートに代わり、地域全体で米軍のプレゼンスを支える考え方)のアイデアも有効だと思います。たとえば、自衛隊と海兵隊が一緒にアジア太平洋地域を巡回し、地域の安定を図る。これにより、海兵隊が沖縄にいる期間を短縮できます。日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、念頭に置かなければならないのは、沖縄の広大な基地を米軍が排他的に使っている現状が果たして健全なのかということです。海兵隊と陸自が連携を深めれば、新たに基地を造らずとも、米軍基地を自衛隊が共同使用することでこと足りるかもしれません。日本が主体的に地域の安全保障を担う流れの中で、基地管理権を日本側に移し、米軍に使用を許可する関係にもっていかなければいけない。NATO諸国の米軍基地は皆そうなっています。

屋良 沖縄では米軍関係者の新型コロナ感染が急増しても情報が開示されず、県民の不安が広がっていますが、これも基地管理権を日本側が持つようになれば、状況は大幅に改善できるはずです。

この記事の執筆者