【書評】佐藤モニカの沖縄詠 ―歌集『夏の領域』から―

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佐藤モニカの第一歌集『夏の領域』(本阿弥書店)が9月に刊行された。作者は1974年生。2011年に「マジックアワー」30首で短歌の新人賞「歌壇賞」を受賞した。この歌集についてはすでにいくつか書評や紹介文が出ており、特に育児を詠んだ歌が高く評価されている。

 

途切れつつ風の入る午後吾子はまた樹液求むるごとく口あつ

草原を走りぬけ来しをさなごの起きぬけの髪また整へる

 

樹液を求めるように乳房に口をあてる子。母は樹木のようなまっすぐさとたくましさで我が子を包み込む。やがて子は眠り、夢の世界で広大な草原を駆けめぐる。思い切り駆け抜けた後、その余熱を引きずり現実の世界へ戻ってくる。草木の香を放つこの親子はとても瑞々しく健康的だ。素直で明るい歌風に好感が持てる。

 

夫の故郷で詠む沖縄詠

 

ところで、育児の歌と共にこの歌集の重要な位置を占めるのが沖縄を詠んだ作、いわゆる沖縄詠であろう。佐藤は千葉県出身だが、夫の故郷である沖縄に2013年から住む。歌集は三部構成で、Ⅰは東京に住んでいた2008年から2012年の歌を、は沖縄移住後の2013年以降の作品を収めている。東京時代のにも沖縄の歌は見られるが、すなわちそれは観光客として沖縄を訪れた際の歌ということになる。

 

故郷に帰れば故郷訛りなる君の言葉が耳元に揺る

見上げつつふり返りつつ歩くなり晴れの日壺屋やちむん通り

 

Ⅰの冒頭の連作「夏の領域」より。「君」(のちに夫となる人物であろう)の故郷の沖縄を訪れたことを詠んだ作である。「君」は普段は訛りを感じさせない話し方をしているのだろう。一緒に故郷を訪れた時に初めて「君」の訛りに気付く。その発見の新鮮さと違和感を「耳元に揺る」と表現。新しいイヤリングをつけたばかりのような感覚を想像した(イヤリングをつけたことのない私には分からないが)。二首目はいかにも観光地を楽し気に、物珍し気に歩く様子が伝わってくる。

このような明るい歌もあるのだが、印象的なのは次のような作だ。

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