沖縄基地問題の起源―『沖縄米軍基地と日米安保』に寄せて―【下】

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歴史的経緯を知ることの大切さ

 

以上のように考察を進める中で意識するようになったのが、日米両政府の外交の基本枠組みの中で沖縄構想及び政策を位置づけようとした二つ目の理由、つまり沖縄基地問題の歴史的経緯を可能な限り分かりやすく説明することの重要性である。

沖縄から離れて暮らしていて感じるのは、沖縄基地問題の捉え方についての沖縄と本土のギャップである。もちろん、私を含め本土に住んでいる人々が沖縄米軍基地の存在を身近に感じることができない以上、ギャップが生じること自体は仕方ないことである。しかしながら、そのギャップの大きさゆえに、沖縄と本土の溝が深まるような事態は、沖縄基地問題の解決を図る上では間違いなくマイナスである。

沖縄基地問題の捉え方に関するギャップの要因の一つとして、沖縄米軍基地の歴史的経緯があまり知られていないことを挙げることができる。本土で沖縄基地問題について語る際によく言われるのが、沖縄は地理的に重要な場所だから、米軍基地が沢山あるのも致し方ないとの意見である。

しかしながら、沖縄に大規模な米軍基地を長期にわたり存続させる状態を、日米両政府が当初から想定していたわけではなかったこと、そしてこれは本書の内容ではないが、例えば元々は本土の方が沖縄より米軍基地が多く存在していたことや、沖縄の米海兵隊は本土から移駐してきたことなどを説明すると、とても驚かれる。そして、話を聞いてくださった方からは一様に、もっと歴史を知らなければならないと思ったとの感想をいただく。

そうであるなら、沖縄米軍基地の歴史的経緯をより知ってもらえれば、沖縄と本土のギャップは少しずつ埋まり、沖縄基地問題に日本全体で取り組もうとする機運が生まれるのではないか。このような問題意識を抱きつつ、先に述べたアプローチで研究を進める中で、専門分野が異なる人でも理解しやすいような説明を目指したのである。

憲法九条・日米安全保障条約と沖縄―現在と過去をつなぐ

 

そのような目標を抱いた私にとって、憲法9条と日米安全保障条約からなる戦後日本外交の基本枠組みは、より重要性を増した。「基本枠組み」などと堅苦しい言い回しを使わなくとも、これら二つの存在が現在の日本にとって重要であることは、漠然とであれ、恐らく多くの人が認識しているであろう。

そこで、沖縄基地問題の起源を、現在まで存在し続けている憲法9条と日米安全保障条約と関連付けて説明することによって、その歴史的経緯が読者の方々により伝わりやすくなるのではないかと考えるに至った。そして、この説明の仕方であれば、本書が70年近くも前の出来事についての内容であっても、今日的な状況と照らし合わせながら読んでもらえるのではないかと考えたのである。

本書が以上の課題をどの程度クリアできているのかは、読者の方々に判断を委ねるしかない。だが、沖縄基地問題の起源を憲法9条と日米安全保障条約と関連付けたことで、少しでも多くの方に同問題に関心を寄せて頂き、議論の礎になるのであれば、本書を刊行した意義はあったと言えそうである。

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