なぜ基地返還は長期化するのか?【上】~韓国と沖縄における米軍再編から考える

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アクター間の調整

 

米海兵隊普天間飛行場(United States Marine Corps Air Station Futenma、以下、普天間基地と記す)は、沖縄県庁舎から北へ約9㎞に位置し、人口約94,000人の宜野湾市の中央にある。約481haの敷地に2,700mの滑走路を有している。軍人1,658人と民間人408人が配属されている(United States Department of Defense, Base Structure Report 2012 Baseline)。

海兵隊は陸上部隊、航空部隊、支援部隊から成り、事態の規模に応じて柔軟に機動部隊を編成する。沖縄には、第3 海兵師団、航空部隊の第1 海兵航空団、第3 海兵兵站群が駐留している。第1海兵航空団の一部が使用する普天間基地は、①ヘリなどによる海兵隊陸上部隊の輸送機能、②空中給油機の運用機能、③緊急時に航空機を受け入れる基地機能を担っている(防衛省『日本の防衛』2014年)。主にヘリコプターや垂直離着陸機オスプレイが配備されているが、輸送機や戦闘機が飛来することもある。

1995年9月に発生した米兵3名による少女暴行事件を機に、沖縄では基地の整理縮小と地位協定の改定を求める運動が起こった。それを受けて、日米両政府は、「沖縄における施設及び区域に関する特別行動委員会(Special Action Committee on Facilities and Areas in Okinawa: SACO)」を設置し、基地の整理・統合・縮小に向けて、約1年かけて集中的に協議した。96年12月のSACO最終報告で、県内移設を条件とした普天間基地とその他10ヶ所の訓練場や施設等の返還が合意された。この時、普天間の代替は東海岸沖の海上施設とされていたが、97年1月、日米両政府は名護市辺野古に隣接するキャンプ・シュワブ(Camp Schwab)沖へ移設することに合意した。その後も建設工法や位置をめぐって沖縄県内、日本政府、米国政府の間で意見が一致せず、それぞれのアクター間で綿密な調整が続いた(渡辺豪『「アメとムチ」の構図-普天間移設の内幕』沖縄タイムス社, 2008年)。

グローバルな米軍再編への合流

 

この二つの基地返還・移転案件は、2000年代に入り米国のグローバルな軍事再編計画に組み込まれることになる。まずはその再編計画の背景と海外基地への影響を概観する。

グローバルな米軍再編の基本概念は、ミサイルやテロリズム、テクノロジーを使った侵略から米国を守るという、1999年にブッシュ大統領候補が行った演説が下地となっている。国防総省は9・11以前から国防計画の見直しを始めていた。同時多発テロから間もなくの2001年9月末に公表した『4年毎の国防計画の見直し(Quadrennial Defense Review)』において、国防計画の基盤を「脅威ベース」から「能力ベース」へ転換し、それに応じて米軍の態勢を変更していくことを明らかにした。能力ベースのアプローチは、誰が敵か、どこで戦争が発生しうるかではなく、敵がどのように戦うかに焦点を当てる。「奇襲、欺瞞、非対称戦を仕掛けてくる敵を抑止し打ち負かすのに必要な能力を特定」して軍事力を再構築するものである。また、4つの防衛政策として、同盟国と友好国を安心させること、将来の軍事競争を諌止する(攻撃可能な軍事力さえ持たせない、あるいは持つ気にさせない)こと、米国の国益に対する脅しと強制を抑止すること、万が一抑止が失敗した場合には敵を確実に打ち負かすことを挙げた。

未知で不確かな問題に直面する新しい時代において、非対称な挑戦者と戦う能力を備えた、より機敏で効率的な軍隊へ再編することが課題となり、グローバルな米軍再編が議論された。守るべき領土や国民を持たない非国家アクターには核抑止は通用しない。そのため、攻撃的核兵器を削減し、通常兵力とミサイル防衛を改善して抑止を高めることとした(Donald Rumsfeld, “Transforming the Military” Foreign Affairs Vol. 81, No. 3)。

グローバルな米軍再編における具体的な海外基地の方針としては、海外基地を次の3種類に分類し、確保することとした。一つ目は、米軍の常時駐留がある主要作戦基地(Main Operating Bases)で、ドイツ、イタリア、英国、日本、韓国にある基地を統合しつつ維持することが想定された。残りの二つは、ローテーション配備や事前集積が可能な前方作戦拠点(Forward Operating Sites)と米軍の駐留はないが有事に使用できる幅広い施設を有する協力的安全保障地点(Cooperative Security Locations)である。

このような全体像を基に、米国は各地域における再編成を検討し、各同盟国と駐留米軍に関して協議を開始した。

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