なぜ基地返還は長期化するのか?【上】~韓国と沖縄における米軍再編から考える

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龍山基地への影響

 

在韓米軍の態勢の主要な再編は次の3点である。

第一に、韓国内に分散する基地の整理統合である。韓国各地の都市化に伴い、発展の妨げになるとして米軍基地の縮小要求が上がっていた。また、朝鮮戦争の時に設置された軍事施設の老朽化の問題もあった。2002年3月30日に署名された「米韓連合土地管理計画(Land Partnership Plan: LPP)」では、韓国全土に分散する41の軍事施設と54の小規模駐屯地及び支援施設のうち、24ヶ所の施設の閉鎖および4ヶ所の部分的返還と12施設の拡張が合意された。この中には、龍山基地は含まれていない。LPPの目的は、基地の統合と訓練施設の共同使用の拡大を通して米軍のみによる土地の使用を減らすことによって、国民の安全を向上させ、同盟を強化することであった(Nam Chang-hee, 防衛研究所での講演, 2006年)。

施設の余剰や老朽化だけでなく、国民の反米感情の高まりも在韓米軍の再編を後押しした。02年6月、訓練中の米兵がトラックで中学生2名の命を奪う交通事故が発生した。米国側が裁判権を行使したことも相まって、韓国では在韓米軍に対する反発が生じた(Yuko Kawato, Protests against U.S. Military Base Policy in Asia, Stanford University Press, 2015)。翌年4月、グローバルな米軍再編から派生する在韓米軍の態勢見直しとして「未来の韓米同盟政策構想(Future of the ROK-U.S. Alliance Policy Initiative: FOTA)」が開始され、今後の在韓米軍の役割や機能、編成、駐留を検討することに合意した。この構想を通して、「持続可能な駐留環境」と「国土の均衡的発展」を実現する米軍の再配置を目指した。実際に、ラムズフェルド米国防長官は米軍再編についての公聴会にて、ソウルの事例を挙げ、「自国の軍が必要とされ、歓迎される地域に兵力を配置すべき」と論じた上で、都市部にある司令部を移転する計画に言及した。

第二に、米陸軍第2歩兵師団(Second Infantry Division: 2ID)の縮小と漢江以南への移転である。2IDは北朝鮮との国境とソウルの間の地域に配置され、北朝鮮からの侵略に備えている。03年に、米国は38,000人規模の在韓米軍から12,500人を段階的に削減することを発表した。その第一段階として、04年に5,000人の削減を完了した。そのうち3,700人が2IDからであった。イラク戦争のために派遣された部隊を韓国へ戻さず、そのまま米本土へ引き下げた。第2回FOTAで、2段階の2ID移転が合意された。まず、漢江以北に分散する基地を2ヶ所に統合し、数年以内に2ID及びそれらの基地を漢江以南に移転する計画である(Nam Chang-hee, “Relocating the U.S. Forces in South Korea: Strained Alliance, Emerging Partnership in the Changing Defense Posture” Asian Survey Vol. 46, No. 4)。

第三に、韓国全土に分散する基地を2つのハブに統合する計画である。一つは、オサン空軍基地(Osan Air Force Base)とキャンプ・ハンフリー(Camp Humphreys)のあるピョンテク地域である。他方は、テグ陸軍基地(USAG Taegu)とチンハエ海軍基地(Fleet Activities Chinhae)が位置する南東部のテグ地域である。2IDを漢江以南のピョンテク地域に移転すれば、ハンフリーやオサンの滑走路とピョンテク港が利用可能で、コンパクトで機動性のある歩兵師団となる。

こうして、FOTAを通じて在韓米軍の再編が検討されるなか、龍山基地の移転も組み込まれた。04年7月、第10回FOTAの合意として、2つのハブへの統合計画とLPPが合流した。04年10月、両国は、UNC、USFK、CFCの本部を龍山からピョンテクに移転する日程や実施手続きを定めた龍山移転計画(Yongsan Relocation Plan: YRP)が合意された。これにより、移転先となるキャンプ・ハンフリーには司令部、運営、医療、厚生施設、居住区域、指揮・統制・通信・コンピュータ・情報インフラやその他のインフラの設置が必要となった。そのため、約172haの土地が必要とされ、同基地は約3倍に拡張することになった。

出典:在韓米軍の再配置計画(『2004韓国国防白書』。『KOZA BUNKA BOX』第14号66ページより転載)

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