「交付金」と名護市長選

この記事の執筆者

「風」が吹かなかった選挙

1月16日の名護市長選告示日。土曜の昼間だというのに、同市の中心街には人ひとりいなかった。飲食店はどこも「当分テイクアウトのみ」の張り紙を出している。昨年12月から新型コロナウイルスのオミクロン株が沖縄に広がる中、名護市は多い日で県全体の1割弱の感染者数が出るほど状況が深刻だ。少し行くと、行き場のない若者たちがマスクもせずコンビニの前にたむろしていた。道の駅まで行けば、感染拡大前と変わらず多くの家族連れでどの売店も賑わっている。昨年8月に完成した真っ白な巨大展望テラスの人気はまばらで、色あせた売店の外壁と奇妙な好対照をなしていた。

同月22日にも再度、名護を訪れた。次々と走り去っていく選挙カー。事前投票所となっている公民館には、無料コミュニティバスとして利用されている大型観光バスが入っては出ていく。引きも切らずに来る有権者の車を、複数の警備員が交通整理していた。

 23日の投開票の結果、自公両党が推す現職の渡具知武豊氏が1万9524票を獲得して再選。同市辺野古の普天間飛行場代替施設の建設に反対する、前市議の岸本洋平氏に5085票差をつけた。学校給食費、保育料、子ども医療費無償化などの1期4年の市政運営を評価されたといわれる。投票率は68.32%で、76.92%だった前回2018年から8.6ポイント下回った。

 事前の選挙報道では「両陣営横並び」といわれ、コロナ感染拡大が現職への批判につながるという予想もあったが、結果は現職の圧勝に終わった。街の雰囲気も選挙結果を示唆していた。沖縄では不景気になると、国とのパイプを持つ候補が選挙で強くなる。90年代から国の多額の交付金が注ぎ込まれてきた名護市では、それが顕著に表れたということだ。

この記事の執筆者