「交付金」と名護市長選

この記事の執筆者

キャンプ・シュワブの日米共同使用

 『太平洋海兵隊基地隊2025年戦略構想』は、海兵隊基地における陸上自衛隊(陸自)と第三海兵遠征軍の共同訓練の強化を重視している。これは、2017年から進められている海兵隊の「遠征前方基地作戦」(EABO)という新構想とも合致しており、対中戦争で日米両軍が共同作戦を行うことを目指す。辺野古のキャンプ・シュワブ沿岸部に建設中の代替施設は、もともと普天間飛行場所属のMV-22輸送機オスプレイ部隊の移転先とされていたが、もはやそれだけではない。

 2021年1月25・26日付の『沖縄タイムス』は、民主党政権期に陸自と米海兵隊がキャンプ・シュワブに陸自水陸機動団を常駐させることで合意していたと報じた。菅義偉内閣の加藤勝信官房長官は会見で、現在は「報道のような計画は有していない」と否定、岸信夫防衛大臣も「いま全くそんなことは考えていない」と発言したが、この構想は代替施設の建設が進めば再度検討されることになろう。

陸自の弾薬庫は沖縄県では那覇と与那国島、宮古島にあるが足りていない。海兵隊の弾薬庫があり、水陸機動団に不可欠な上陸訓練などもできるキャンプ・シュワブへの常駐は、陸自の南西防衛には不可欠だと考えられている。久辺3区は、陸自のキャンプ・シュワブ使用に反対していたが、受け入れに転じたといわれる。地元の関心は米軍再編交付金による生活補償の実現にある。国は否定的だが、辺野古区長は代替施設を受け入れる際の約束だったはずだと主張している。

交付金ありきの市政

今回の名護市長選では、米軍再編交付金に依存した市政運営の是非が問われた。交付金の根拠となる米軍再編特別措置法は2017年3月までの10年の時限立法だったが、新基地建設が遅れる中で期限に伴い成立した改正特措法でさらに10年延長されている。

 岸本陣営は、米軍再編交付金は期限つきの出来高払いであり給食費・医療費無料化の財源とすることには問題があると主張したが、実際には、基地所在自治体に迷惑料として毎年支払われる特定防衛施設周辺整備調整交付金(特防交付金)もある。これも一部は医療費助成などの住民サービスに幅広く使える(いわゆる「9条交付金」)。施設の運用頻度や面積、自治体の人口などに応じて交付額が決まるが、そのほかに施設の運用の変化を考慮した「特別交付」があり、大臣裁量枠も設けられているなど算定根拠は不透明だ。

 キャンプ・ハンセンとキャンプ・シュワブのある名護市は、2010年に代替施設建設に反対する稲嶺進市政が誕生すると、特防交付金を12年度に2900万円、13年度にはさらに2800万円減額された。容認派の渡具知市政に代わった18年度は2700万円増えて1億1300万円の交付額、20年度には1億2500万円の交付額にまで増額されている。

 軟弱地盤があると指摘されている辺野古の大浦湾側の工事はいまだ始まっていないが、新基地完成が遅れればそれだけ米軍再編交付金の交付が長引き、もし完成して同交付金が打ち切られても、自衛隊のキャンプ・シュワブ常駐を受け入れれば特防交付金の増額が見込まれる。そうして際限なく基地の負担とひきかえに交付金を獲得し続けることでしか、交付金に依存しきった名護市政はもはや立ち行かない状況にある。今回の選挙でそこまできてしまった。

この記事の執筆者