「同盟強靭化予算」は何を意味するのか

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コロナ禍の五輪を「安心・安全の大会」と唱え、こども庁はいつの間にか「こども家庭庁」になった。何か変。そう感じる人も少なくないだろう。

 政府はこれまでも、集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法を「平和安全法制」と命名し、「武器輸出」を「防衛装備移転」といった具合に言葉の置き換えを図ってきた。

 巧妙なのか、露骨なのか、それとも稚拙なのか。人によって見方は分かれるだろうが、そこには「こう解釈してほしい」という国の願望や、不都合な真実を覆い隠す意図も見え隠れする。

 そして今回、在日米軍駐留経費負担、いわゆる「思いやり予算」を「同盟強靱化予算」と言いだした。これは何を意味するのか。

 日米両政府は昨年12月21日、2022年度から5年間の在日米軍駐留経費を、年度平均2110億円とする方針で合意した。岸信夫防衛相は記者会見で、こう胸を張った。

「厳しい安全保障環境に肩を並べて立ち向かっていく決意、日米同盟をより強靱なものとしていく決意を示すことができた」

会見では、新たな負担項目として「訓練資機材調達費」を盛り込むと発表した。在日米軍が射撃訓練やサイバー訓練で使う最新鋭の資機材の調達費用として、日本側は今後、5年間で最大200億円を負担する。岸氏は会見で、広く定着していた「思いやり予算」の通称を「同盟強靱化予算」に言い換えることも明らかにした。

新たな呼称は、外務省北米局の職員が発案した、ともされる。林芳正外相は同日の会見でこう説明した。

「思いやり予算という呼び方は俗称。負担の性質を端的に示すものとして同盟強靱化予算と呼ぶことにした」

在日米軍に対する“支援”の意味合いが強い「思いやり」という言葉をやめて、より実態に合わせた表現にしたというのだ。

 実際、今回の合意では「思いやり予算」の象徴ともされてきた在日米軍の光熱水費を削り、日本側の負担割合を約61%(234億円)から今後5年間で約35%(133億円)に段階的に下げることが決まった。その代わりに、日米の防衛力強化に資する共同訓練にかかる費用を負担する「質の転換」を図ったのが、「同盟強靱化」にあたる、という理屈だ。

だが、これを「成果」と捉えるかどうかは、安全保障政策の価値をどこに見いだすかによる。

 光熱水費には想定できる上限があるが、訓練資機材調達費は将来的にさらなる肩代わりを求められ、際限なく積み増しされていく可能性もある。「思いやり予算」の経緯を振り返れば、そんな危惧を抱かざるを得ない。

 そもそも在日米軍の駐留経費は、日米地位協定24条によって米側の負担が原則とされてきた。それが同条の解釈変更によって、なし崩し的に拡大していった。米軍基地で働く日本人の労務費の一部を手始めに、隊舎などの施設整備費、光熱水費、訓練の移転費と、「例外」の範囲は拡大の一途をたどる。

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