「同盟強靭化予算」は何を意味するのか

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「モノ」も「ヒト」も

日米同盟は、日本側が基地=モノ、米国側が兵力=ヒトを提供して日本を防衛する「モノとヒトとの協力」と呼ばれてきた。「思いやり予算は、それを財政面から支えるものでした」と説くのは、沖縄国際大学の野添文彬准教授(国際政治学)だ。

「『同盟強靱化予算』という言葉には、米軍を日本に駐留させて日本を守ってもらうのではなく、日米でともに戦うという『ヒトとヒトとの協力』に日米同盟を変えていこうとする意図を見ることができます」(野添准教授)

訓練資機材調達費の新設も、日米一体化を進めることが前提だ。自衛隊と米軍の基地の共同使用も進んでいる。

 野添准教授は言う。

「安全保障関連法によって日米同盟はかなりの程度『ヒトとヒトとの協力』へと変化していますが、今回の名称変更も米軍のためではなく、日米同盟のための費用だということを印象づけ、『ヒトとヒトとの協力』への方向性を反映したものといえます」

 背景には、「中国の台頭」と「米国の国力低下」があるという。

「米軍は近年、中国のミサイル能力の増強や東シナ海や南シナ海での海洋進出を受けて、基地に駐留するという固定的なプレゼンスから、各地で一国もしくは同盟国との訓練を行うという動的なプレゼンスに重点を置いています。訓練のための費用負担はその意味でも重要です。自衛隊にとっても、訓練を通して米軍との一体化を進め、日本防衛に米軍をつなぎとめたり、米軍基地を自衛隊が使えたりすることは大きなメリットになります」(同)

 問題は、日米同盟が「ヒトとヒトとの協力」に変化していくにしても、日本国内に米軍が駐留し続ける現実は変わっていない、ということだ。「モノとヒトとの協力」という構造は変わっておらず、モノ=在日米軍基地の大半(約7割)は沖縄に集中している。

「沖縄は平時からの基地負担に加え、近年は台湾有事などによって戦争に巻き込まれるリスクも高まっています。米軍基地が多く存在し、地理的にも沖縄は日米同盟にとって極めて重要な場所ですが、沖縄の基地負担や有事のリスクについて議論や取り組みが不十分なまま、中国をにらんだ日米一体化が進んでいくのは問題です」(同)

 前出の宮城教授も、「『米国引き留め』の一本足打法ではリスクもある」と指摘する。

「アジアでの対話や緊張緩和の枠組み作りといった外交の努力をあわせて追及すべきですが、近年は抑止力強化の一辺倒です。台湾有事をめぐる勇ましい発言も有力政治家から聞かれますが、抑止力は強化しつつ、問題の平和的解決、現実には『安定的管理』ということになるでしょうが、それに向けて何ができるのかを、もっと真剣に考えるべきです」

 主要国で飛び抜けて財政状況が厳しい日本が、米中と肩を並べて防衛費や関連予算の増額を重ねるばかりでは国家財政の破綻も招きかねない。宮城教授はこう強調する。「政治や外交の知恵が、日本にはもっと求められているのではないでしょうか」

【本稿は週刊AERA 4月7日号を転載しました】

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