大盤振る舞いできる財政状況ではない
1978年度に62億円の支出で始まった駐留経費は、ピーク時の99年度には年間2756億円に膨らんだ。
これ以外にも、日本政府は在日米軍の維持に関する予算として、基地周辺の住宅防音工事や公共施設整備事業、軍用地の借料や漁業補償などを計上している。ほかにも自治体への交付金なども含め、近年は6千億円前後の支出で推移している。
その結果、日本の厚遇ぶりは、他の同盟国に比べ、際立っている。
米国が2004年に公表した各国の負担率は、日本74.5%、イタリア41%、ドイツ33%、韓国40%だった。米国の政治学者ケント・カルダー氏は「米国の戦略目標に対して日本ほど一貫して気前のいい支援を行ってきた国はない」と指摘。「02年の日本の米軍援助総額は、46億ドルを超えている。これは世界各国から米国が受けている受け入れ国支援総額の60%以上にあたる。日本に配置された兵士1人あたりに対する援助額は、ドイツと比べると5倍近い」(『米軍再編の政治学』)と解説している。
06年の日米の米軍再編合意では、日本の主権が及ばない米国領土であるグアムの基地建設費を日本側が負担することが盛り込まれた。11年版の防衛白書によると、「在沖海兵隊のグアム移転事業」として、グアム移転に関する経費の総額約102億7千万ドルのうち、日本の負担額が約60億9千万ドルとされている。12年4月に日米が合意した米軍再編見直しの共同文書では、グアム移転の規模は縮小するにもかかわらず、日本側の負担を増額した。
「思いやり予算」の通称は、1978年の衆議院内閣委員会で金丸信防衛庁長官(当時)が「日米関係が不可欠である以上、円高ドル安という状況の中で、米国から要求されるのではなくて、信頼性を高めるということであれば、思いやりというものがあってもいいじゃないか」と答弁したのが由来だ。
上智大学の宮城大蔵教授(日本外交)は当時の背景をこう解説する。
「米国は財政危機とドルの下落に苦しむ一方、日本製品は競争力を増し、国際収支は大幅な黒字でした。『安保ただ乗り』という米国の不満を和らげるために思いやり予算が始まったわけですが、軍事面で制約のある日本に対する米国の不満をカネで和らげるという構図は、91年の湾岸戦争での130億ドルの拠出などにも通じるものだといえます」
しかし、「安保ただ乗り」の構図は冷戦後、ガイドライン法や安保法制によって、日本がより能動的な姿勢をとる方向へと大きく変化してきた。また日本経済が低迷し、かつてのように大盤振る舞いできる財政状況ではない。
そんななかで打ち出された「同盟強靱化予算」という名称。宮城教授は「政治的な意図が濃厚です。本来は、より価値中立的な名称が好ましい」と言う。「同盟強化のためなのだから当然支出すべきもので、削減を議論するのは同盟を弱体化させる」といった具合に、この予算を聖域化する動きを触発しかねない、と考えるからだ。
「第2次安倍晋三政権下の安保法制をめぐっては、政府は『平和安全法制』という呼称を打ち出して反発を和らげようとしましたが、メディアなどでは定着しませんでした。今後、この予算を政府側の意向通り『同盟強靱化予算』と呼ぶのか、メディアの側の判断も問われます」(宮城教授)