*本稿は『戦後沖縄の政治と社会』の執筆陣7名で分担執筆したが、編集上の都合により、執筆者を代表として平良の名前のみを記載している。
『戦後沖縄の政治と社会』を刊行
今年は沖縄の日本復帰50年という節目の年である。アメリカ統治時代が27年間であったことを考えれば、復帰後はその倍近くの年月が経っていることになる。これは決して短い時間とはいえないだろう。
では、この日本復帰以後の沖縄の歩みを、いや復帰後も含めた77年におよぶ沖縄の戦後の歩みを、私たちはいったいどれだけ知っているのだろうか。
アメリカ統治時代やその起点となる沖縄戦に関しては、研究蓄積も多く、いまも活発に研究が続けられていることから、その実態解明はかなりの程度進んでいるといえる。しかし、それに比して日本復帰以後の研究は、その50年におよぶ歴史があるにもかかわらず、それほど進んでいないのが現状なのである。
こうした現状を踏まえて平良と高江洲が編者となって、今年1月に吉田書店より『戦後沖縄の政治と社会―「保守」と「革新」の歴史的位相』を刊行した。執筆陣の専門分野は政治学、経済学、社会学、行政学、歴史学と、実に多岐にわたっているが、その専門分野を活かして戦後77年におよぶ沖縄の実態を、とりわけ日本復帰後の実像を、各自が大きく掴みとろうと試みたのが本書である。
本書の構成と執筆者
各章のタイトルと執筆者は次の通りである。
第1章
反共社会の形成と反米政党の活動―人民党への支持と活動を事例にして(高江洲昌哉・歴史学)
第2章
沖縄と外資―外資政策の展開と拒絶の論理(小濱武・経済学)
第3章
日本復帰後沖縄の「豊かさ」をとらえる視座―社会経済変容と保守系総合雑誌に着目して(秋山道宏・社会学)
第4章
沖縄県による自治体外交と中台問題(小松寛・国際政治学)
第5章
沖縄県庁の幹部人事―「保革の論理」と「行政の論理」の交錯(川手摂・行政学)
第6章
沖縄の政党政治と中央・地方関係―日本復帰から現在まで(平良好利・政治学)
第7章
「オール沖縄」・翁長県政とは何だったのか(櫻澤誠・歴史学)
本書刊行に至る経緯と苦労譚?
本書の内容を紹介する前に、まずは本書ができるまでの経緯を簡単に述べておきたい。
本書の執筆者は「琉球政府研究会」のメンバーからなる。同研究会は、本書の編者の一人である高江洲の呼びかけで、アメリカ統治時代に存在した琉球政府を研究する目的でできた研究会である。同研究会は、当時活躍した琉球政府関係者にインタビューを実施し、その証言記録を残すことに力点を置いて研究活動を行った。
その琉球政府関係者は、日本復帰後は沖縄県庁職員となり、副知事など沖縄県の要職にまで上り詰めた方々も多くおり、自然と話題は復帰後の出来事にまで及んだ。また本研究会は、大田昌秀元知事や稲嶺惠一元知事など復帰後に知事を務めた方々や、戦後の沖縄で活躍した政治家や経済界の方々にも話しを聞くことができたので、かなり多方面にわたる貴重な証言を残せたのではないかと思う。
そのインタビュー成果を『戦後沖縄の証言』としてまとめ、2018年に非売品ながらも刊行することができた。興味のある方は、沖縄県内の公共図書館やいくつかの大学図書館等に所蔵されているので、ぜひ手に取ってお読みいただければ幸いである。また、吉田書店から2017年に刊行した河野康子・平良好利編『対話 沖縄の戦後―政治・歴史・思考』にも、この『戦後沖縄の証言』に登場した方々が何人か登場し、別の角度から証言しているので、そちらもぜひお読みいただければ幸いである。
このようにインタビュー記録を刊行したあと、同研究会はさらにその成果を基盤にして論文集を刊行しようということで、研究を続行した。その研究成果として刊行することができたのが、今回の論文集『戦後沖縄の政治と社会』である。
論文集刊行に向けての各自の研究は、その専門分野の違いや関心の違いから、当然ながら様々な領域にわたり、そこから共通点を見出す作業は知的刺激がありながらも、困難を伴うものであった。とくに議論が沸騰したのは、本書のキーワードをめぐってであったが、そこから浮かび上がってきたものは、本書のサブタイトルにもなっている沖縄における「保守と革新」というキーワードであった。この「保守と革新」については各章で論じ方は様々だが、それが本書全体の底流に流れる一つのキーワードになっていることは間違いない。
こうして刊行されたのが本書であるが、以下各章の見どころのようなものを執筆者本人が語ることとしたい。本書を手にする機会があれば、ぜひ参考にしていただければ幸いである。