『戦後沖縄の政治と社会』―復帰50年を考える視座として

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第6章 沖縄の政党政治と中央・地方関係(平良好利・政治学)

本章は、日本復帰から現在に至るまでのおよそ50年近くにわたる沖縄政治の展開を、政党政治の観点から大きく考察したものである。本章では、例えば重要な出来事であった1996年の県民投票も、また2010年代の「オール沖縄」の運動も、当時の沖縄での政党政治の展開を抜きには語れないのではないか、という点を指摘している。しかも、その政党政治の展開は中央の政治とも密接に関係しており、よって中央・地方関係にも目を配らなければ実際の沖縄県の政治をうまく捉えることはできないのではないか、という点も指摘している。

また、「辺野古移設問題」をめぐる自民党の態度がその典型であったが、政党組織の本部・支部間で政策に違いが出た場合、とくにみずからの政党が政権に就き、それによって「国家の利益」と「地方の利益」が衝突した場合、政党の地方支部が果たしてどのような態度をとったのかも本章では注目した。

さらに踏み込んでいえば、政党ないし政党政治を自明の前提としがちな今の政治学に対し、そもそも地方にとって政党とはいかなる意味をもつのか、また地方にとって国政と連動しながら展開される政党政治をどう考えればよいのか、さらには地方分権が進んで地方の自立性が高まってきている今日において、また地方と中央の政策判断が異なるケースも増えてきている今日において、中央的側面と地方的側面を併せ持つ政党がいかなる役割を果たしえるのか、あるいは果しえないのか、といったやや根本的な問いをも本章は視野に収めている。

第7章 「オール沖縄」・翁長県政とは何だったのか(櫻澤誠・歴史学)

本章は、2014年の沖縄県知事選・衆院選での「オール沖縄」勝利、そして、翁長県政の歴史的位置付けについて、その前提となる「島ぐるみ」の要素の変遷から検討したものである。

「島ぐるみ」の要素とは、「経済構想」「基地認識」「帰属・アイデンティティ」「沖縄戦」である。各要素の詳細はぜひ本論文集を手に取って確認していただきたいが、これらはいずれも米軍統治期(1945~72年)に沖縄住民が政治的立場を越えてまとまり得る認識として形成され、復帰後も保革対立軸という表層の底流に存在し続けてきたものである。

1990年代には「55年体制」が崩壊し、国政レベルでの旧来の保革対立軸がなくなるなかで、沖縄政治においても保革対立は不鮮明になっていった。そのなかで、底流に存在してきた「島ぐるみ」の要素が前提となり、間欠的に「島ぐるみ」での取り組みが展開されていく(1995年、2007年、2010年、2012年の大規模県民大会など)。

「オール沖縄」候補として県知事に当選した翁長雄志は、まさに「島ぐるみ」4要素を政治的に体現していた。ただ一方で、「島ぐるみ」運動としての「オール沖縄」と、選挙活動を含めた政治団体としての「オール沖縄」は分けて考える必要があるだろう。翁長県政期には「チーム沖縄」(親自公政権・反「オール沖縄」の県内市長連合)との対立が鮮明となっていくが、安倍政権下でつくられた従来の保革対立とは異なる新たな分断は、「オール沖縄」の要素自体を批判する動きでもあった。

本章は、現状への関心と結び付けて読まれることが多いだろう。「島ぐるみ」の要素をふまえて「オール沖縄」・翁長県政を位置づけることで、後継の玉城県政や近年の選挙についても、より俯瞰的な見方が可能になるものと考えている。

以上が本書の執筆陣からみた各論文の見どころであるが、ともあれ、今年は沖縄の日本復帰50年という節目の年である。この機会に戦後沖縄の歩みをいま一度振り返ってみれば、今後の沖縄県にとって、いやこれからの日本にとって、考えるべきいくつもの課題がみえてくるのではないかと思う。戦後沖縄を様々な角度から考察した本論文集が、ささやかながらもその一つの視座を提供できるのであれば、執筆陣一同、これに勝る喜びはない。

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