甲子園優勝を「宣告」
沖縄尚学高校野球部は2008年のセンバツで2回目の全国制覇を果たした。このときも事前に「判示」があったという。前年秋の大会でセンバツ出場が決定的となった試合の直後、元保護者の女性が理事長室に駆け込み、「宣告」した。
「私には見えます。間違いなく全国優勝します。ただし、私の言う通りにしてください」
女性は理事長室の絨毯とカーテンの色を赤に替えること、理事長はネクタイや下着を赤に、理事長の長男で附属中学校長の政一郎副理事長(59)は茶色に統一することに加え、校歌も替えるよう進言。自分で作詞作曲した新しい校歌も持参していた。
理事長、副理事長は指示通りに着衣を改め、理事長室の絨毯やカーテンも張り替えた。しかし校歌は、おいそれとは変更できない。窮余の策として、甲子園に出発する際、野球部員全員がカセットに合わせ、女性が持ち込んだ「校歌」を合唱。甲子園の試合当日は、講堂に設置した大スクリーン前で合唱部員に歌ってもらった。
副理事長はこう振り返る。
「人事を尽くして天命を待つ、という心境でした」
甲子園での最大の関門は、東洋大姫路と対戦した準決勝。8回裏に集中打で一挙4点を入れて逆転するまで、0対2で負けていた。だが、スタンドで応援していた副理事長は当時、「どこで逆転するのかな」と思いつつ観戦していたと明かす。
この元保護者の女性(75)は本誌の取材に、私はユタではない、と断ったうえで「小さいときから霊感が強いので、周囲からは神人と呼ばれることはあります」と話した。
神人は、かつて琉球王朝に仕え、祭祀や儀礼を司るノロ(祝女)に通じる格式の高い響きがある。沖縄では社会的な蔑視にさらされることもあり、「ユタ」と呼ばれるのを好まない人も少なくない。