医者が半分、ユタも半分

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痛みの共有と連帯

 

沖縄には「医者半分、ユタ半分」という言葉がある。これを医療現場で実践するのが、沖縄県医師会常任理事の稲田隆司医師(61)だ。稲田氏は言う。

「ユタが私のところへ行くよう依頼者にアドバイスする場合もあれば、神がかり的なことに意識が強い患者さんには信頼できるユタを紹介するケースもあります」

那覇市出身の稲田医師は本土で経験を積み、約20年前に同市内でメンタルクリニックを開業。沖縄の精神医療の現場では、ユタと診療の両方にかかる人も珍しくないことを知った。

「近代精神医学の知識や価値観だけでは沖縄社会の現実に対応できません」(稲田医師) 

ユタにはつらい境遇を乗り越えた人が多い。そうした人がユタになり、カウンセリングを引き受ける。このシステムは「自助グループ運動と似ている」と稲田医師は解説する。 

沖縄社会でのユタの存在感を示す、こんな数字がある。 

琉球新報社が沖縄県内の20歳以上の男女を対象に実施した16年の県民意識調査によると、「あなたはユタへ悩みごとを相談しますか」との質問に、「よく相談する」「たまに相談する」と回答したのは16.6%。男女比は女性24.2%、男性8.7%。過去15年間の調査で同傾向を示し、女性を中心に一定の需要がうかがえる。 

県内の30代女性はユタの癒やしの力をこうたたえる。 

「説教くさい言い方ではなく、私も苦しいことを乗り越えてきたから何とかなる、あなたも頑張って生きなさい、と励まされたような感覚に包まれます」

  稲田医師は言う。

「琉球古来の世界観に基づく原初的なカウンセリング機能を持つユタという存在は、『痛みの共有と連帯』という位置づけで沖縄社会に組み込まれています」

 

※ユタ…『沖縄大百科事典』(沖縄タイムス社)によると、ユタは「神がかりなどの状態で神霊や死霊など超自然的存在と直接に接触・交流し、この過程で霊的能力を得て託宣、卜占(ぼくせん)、病気治療などをおこなう呪術・宗教的職能者。大部分が女性」などと解説されている。

【本稿は『AERA2017102日号を転載しました。年齢などは当時】

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