ヤンキーの「パシリ」になった社会学者【下】

この記事の執筆者

出版を喜ぶヤンキーの若者たち

 打越さんは、暴力のこと、彼らの普段の生活のことを丸ごと書いた。きっと、彼らのプライドとして書かれたくないこともあっただろう。パシリとして打越さんはどのように出版へとこぎつけたのだろう。
 
 「彼らには、出版前に、原稿を見せました。特によしきさんのことは、暴力について書くので、人生も含めて書かせてくださいと奥さんにも会ってお願いしたら『お前はまだ分かってない。でも、俺のことなら書け』と言ってくれました。」

 「出版してからは、登場する一人一人に本を手渡ししています。『この写真、あの現場だ』とすぐに分かってくれます。『俺、こんなこと言ってたなー』と思い出してくれたりもしています。字が多くて読んでもらえないかもしれないので、目の前で読み上げています」

 「なぜ、そんなことやっているのかと言うと、これで終わりじゃないですよと伝えたいからです。彼らは私が10年前に声をかけた時に、私がトンヅラすると思っていたと思うんです。私は継続的に話を聞かせてもらうつもりで説明していましたが、そんなこと彼らからすると信じてもらえません。本を出した直後に沖縄にいない、顔を出さなくなったという状況を、私は避けたかったです。だから、出版直後から、電話で呼び出されたらすぐいける態勢を取っています。このような形で調査すること、それを書くことを、彼らに説明し続ける態度がとても大事なことだと思います」
 

 打越正行(うちこし・まさゆき)1979年生まれ。社会学者。2016年、首都大学東京人文科学研究科にて論文博士号(社会学)を取得。現在、特定非営利活動法人 社会理論・動態研究所・研究員、沖縄国際大学 南島文化研究所・研究支援助手ならびに琉球大学 非常勤講師。

【本稿は『沖縄タイムス+プラス』⇒https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/418740 を転載しました】

この記事の執筆者