R18指定だからこそのリアル~沖縄出身監督が描いた孤独

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「 線引いてんじゃねーぞ」

過酷な生活を送る役を演じる西川さんのため、撮影現場では、メンタルケアの対策も十分になされた。撮影場所の福島県に、チーム全員で2週間合宿した。困難な役の場合、生活する東京と現場を行ったり来たりしてしまうと、日常との落差に心がついていけなくなり、精神的に参ってしまうことがあるためだ。安里監督は、数々の現場で、心が折れて演じられなくなってしまった人を見てきた。

「ケアがあって、私は100%役に集中できました。安里監督の脚本、一文字、一文字に込められていた思いがすごくて、無駄なシーンは何一つない。むしろ、役者さんたちとも前向きな話をして、プラスアルファでできることを探していましたし、2週間、この映画の中で生きた夢を見ている感じでした」(西川さん)

実は、映画のチラシを見たとき、「三井くん」がベッドの下から女性をひたすらのぞいているという設定にストーカーの付きまといを連想してゾクッとしたが、見ているうちに、いつの間にか三井くんに引き込まれ、彼を応援していた。これこそ、安里監督の演出の力であり、映画のみどころでもある。

「この映画は、見返りを求めない無償の愛の話です。昨今の事件を見ていると、自己愛に起因する部分をよく感じます。そこの違いも描きたかったです」

 「もう一つは、不安定な主人公を描きたかった。今の世の中は、いい人なのか、悪い人なのか、いいことなのか、悪いことなのかを安易に線を引きすぎだと思います。本当はいい、悪いの線なんてないし、揺らぎがあるはずです。だから、お客さんの気持ちを揺れさせたかったですね。線引いてんじゃねーぞと。フィクションだからこそできることだと思います」


 「アンダー・ユア・ベッド」は、テアトル新宿(東京)、那覇市のシネマパレットなど全国で上映中。

<プロフィル>
【監督・脚本】安里麻里(あさと・まり)
1976年生まれ。沖縄県出身。
黒沢清、塩田明彦の助監督を経て、2004年「独立少女紅蓮隊」で劇場長編映画デビュー。2014年「バイロケーション」はウディエネ極東映画祭、ストックホルム国際映画祭などへ出品され、国内外で賞賛を浴びる。そのほか、「リアル鬼ごっこ」「劇場版零~ゼロ~」「氷菓」など。
 
【女優】西川可奈子(にしかわ・かなこ)
大阪府出身。
2007年に初舞台。小劇場を中心にヒロインとして活躍。2015年からテレビ映画などで活躍。出演作に「ホテルコンシェルジュ」「セシルのもくろみ」「ホワイトリリー」「西郷どん」。2018年「私は絶対許さない」でマドリード国際映画祭主演女優賞にノミネート。

【本稿は沖縄タイムスのウェブマガジンWコラム記事より転載しました】

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