かすむ本土の当事者意識~沖縄の全国キャラバンへの視点

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「沖縄の民意」を踏まえて米軍基地問題の議論を深めてもらおうと、沖縄県は玉城デニー知事が全国を巡る「トークキャラバン」を続けている。全国の人に沖縄の声を届け、「自分ごと」として考えてもらいたい―。この呼び掛けに、「本土」の私たちはどう向き合うのか。

「自分ごと」として捉えてほしい

夕暮れどきの屋外ステージに、「アンコール」の大合唱が響いた。

2019年9月、沖縄出身者が多い大阪市大正区で開かれた「エイサー祭り」の会場。玉城デニー知事が飛び入りでステージに上り、ギターの弾き語りで披露したのは、ベン・E・キングの「スタンド・バイ・ミー」だった。

玉城知事はこの直前まで、向かいにある大阪沖縄会館で沖縄県主催の「トークキャラバン」に出席。300人の聴衆を前に沖縄の過重な基地負担の実情を訴えた。

小学生が「沖縄の基地をなくすために僕ができることは何ですか?」と質問し、玉城知事が「自分で考えて、自分で判断し、自分で行動すること」などと丁寧に答える場面も。

沖縄の歴史的苦難や基地被害の深刻さを伝えるだけでなく、玉城知事の親しみやすいキャラクターを生かし、参加者と親密な対話ができるよう会場の規模やプログラムにも知恵を絞る。エイサー祭り会場への飛び入り参加も織り込み済みの演出だ。

トークキャラバンは2019年6月以降、東京、名古屋、大阪、札幌で開催。会場はいずれも満員で、参加希望者があふれる盛況ぶりだ。知事本人が訪れるため、開催地の行政幹部と面談したり地元メディアの取材を受けたりする機会も多く、県が企図する情報発信の成果も上々という。

講演で訴える主なテーマは、普天間・辺野古と日米地位協定の問題だ。県民投票で7割を超える「反対」の民意が示された後も、国は辺野古新基地建設を強行している。そんな中、玉城知事がキャラバンで繰り返すのは「自分ごととして考えてほしい」というフレーズだ。沖縄の現状を自分の地域に当てはめて「自分ごと」と捉え、行動するきっかけにしてもらいたい、というのが事業の眼目なのだ。

事務局を務めるシンクタンク「新外交イニシアティブ」(ND)は外交・政治に関する政策提言を行うNPO法人だ。猿田佐世代表は、沖縄と本土の問題意識の共有が不可欠と強調する。

「全国世論調査でも『辺野古』に反対する民意は多数を占めています。しかし、さまざまな社会問題の中で『辺野古』の問題を自分の生活に直接かかわる最重要課題、とまでは本土では実感しにくいのが現実です」

このためキャラバンでは、引きこもりの人や障害者の支援活動などにかかわる20~30代にも登壇してもらい、人権や民主主義といった観点から基地問題との接点をつむぐ議論も展開している。

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