かすむ本土の当事者意識~沖縄の全国キャラバンへの視点

この記事の執筆者

「政治的」という批判

しかし、ネット上では、キャラバンについてこんな発信をするメディアもある。

「会場は『反米軍』『反安倍政権』一色に染まり、さながら『官製の左派活動家集会』と化した」「税金を払っている県民の中には辺野古移設、米軍基地の存在に肯定的な立場をとっている人もいるのに、登壇者は反対派一色でバランスがとれていない。県は暴走気味だ」

こうした論調に合わせるように、県の行動を「政治的」と判断し、距離を置く首長もいる。

キャラバン開催に伴い玉城知事が大阪府庁を訪れた際、吉村洋文知事は面会しなかった。その理由について吉村知事は記者団に「日程の調整もあるが、大阪府庁として実務的な立場で中立公正な立場で対応させてもらう方が誠実だと思った」と説明。事務局のNPO法人(ND)についても「非常に政治的に偏った方で構成されている。極めて政治的」と言及し、「その議論を戦わせるなら政党の討論会でやるべきで、こういう役所の公務でするべきではないのでは」と持論を述べた。

じつは沖縄県議会でも同様の指摘が自民党議員から相次いでおり、その都度、県当局は答弁を重ねている。

「反対派一色」などの批判に県は、名古屋のシンポジウムで「辺野古容認派」とされる有識者も登壇したことなどを挙げつつ、「玉城知事は辺野古新基地阻止を公約に掲げて当選しており、県行政として辺野古移設の問題点を訴えることは何ら問題ない」と反論。NDに関しても、NPO法人は特定非営利活動促進法で「政治上の主義を推進し、支持し、又はこれに反対することを主たる目的とするものでないこと」が要件の一つとされている点を指摘し、「NDは所轄庁である東京都からNPO法人の認証を受けており政治的中立性は保たれている」との見解を示す。

「沖縄からのメッセージ」への共感

そもそも基地問題への理解を求め、沖縄県の知事やブレーンらが全国を行脚するのは今回が初めてではない。

1995年に起きた3人の米兵による少女暴行事件を受け、当時の大田昌秀知事は「沖縄からのメッセージ」事業を展開。2003年には自公が支える稲嶺恵一知事も相次ぐ米兵犯罪を受け、基地を抱える全国の知事らを回って日米地位協定の改定を訴えた。だが、本土メディアのあからさまな否定的論調や、政治的分断が表面化することはなかった。一部とはいえ、なぜ今回は「政治的」との批判が上がるのか。

琉球大学・早稲田大学名誉教授で沖縄政治に詳しい江上能義氏(73)は、キャラバンについて「沖縄の現実を全国に伝えようとするもので、大田県政の『沖縄からのメッセージ』と本質的には同じ」と指摘する。

大田県政は「基地と平和と文化を考える」と題した「沖縄からのメッセージ」のキャンペーンを1996年2月からスタート。1998年9月まで46都道府県、米国主要都市5カ所で実施し、国内外の人々に沖縄の基地問題の解決に向けての支援を呼び掛けた。基地問題の歴史と現状を紹介したビデオ上映や講演に加え、琉球舞踊など沖縄独特の文化も紹介。参加者からは「これまで沖縄のことを知らなすぎた」「現状がこんなにひどいものとは思わなかった」「沖縄県民が怒るのも無理はない」といった熱のこもった感想が寄せられた。

「沖縄からのメッセージ」には、当時琉球大学教授だった江上氏も講師として参加したという。

「大田知事と意見が一致する県内のブレーンが全国各地で講演しました。当時は公明党が県政与党だったため、私は創価学会の知人に頼まれ、東京と愛媛で講演しましたが、『政治的』との批判はまったく聞かれませんでした」

この事業は、95年の米兵による少女暴行事件を契機に、沖縄の基地被害に全国の関心が集まった時期と重なる。だが、この事件以前には沖縄の世論も大きく異なっていた、と江上氏は振り返る。

この記事の執筆者