コロナ禍の沖縄~「危機の本質」を見極める

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弱みにつけこむ卑怯

さらに、県民の感染者にはカウントされていないが、県内の米空軍嘉手納基地でも軍関係者3人の感染が明らかになった。県は感染の経緯や隔離状況などの情報が不十分だとして米軍に詳細な情報提供を求めているが、米軍は性別や年代のほか、隔離の方法や発症までの行動歴などは明らかにしていない。基地内では日本人従業員が働いているほか、基地外に住んでいる米兵もおり、住民の不安要素が増している。

「米兵の基地外での活動自粛が指示されているにもかかわらず、街中や観光地などで米兵関係者の姿を見ることがある。多くの米兵が沖縄に生活しているのだから、周辺住民が不安に感じないよう自治体との情報共有、情報公開の徹底が必要」

こう訴えるのは日米関係に詳しい沖縄国際大学の野添文彬准教授(日本外交史)だ。

沖縄特有の懸念は他にもある。

4月10日には米軍普天間飛行場から発がん性の疑われる有機フッ素化合物PFOSを含む泡消火剤が大量に流出。周辺の排水路の水面に泡の塊が浮かび、住宅街にも泡が舞った。

「コロナ危機の中で米軍の事故やトラブルが起きると、周辺住民はパニックになります。過重な米軍基地の負担と経済的困窮が重なり、地域社会の心理的圧迫は増すばかりです」(野添さん)

沖縄での感染者数は4月に入って拡大を続け、人口1万人当たりの感染者数は4月19日時点で0・76と全国で14番目に多い状況になった。危機感を抱いた玉城知事は4月20日、県独自の「緊急事態宣言」を出し、感染拡大が目立つ13都道府県が指定されている「特定警戒都道府県」に沖縄県を追加指定するよう政府に求めた。

辺野古新基地建設を進めるため、国が予定地の軟弱地盤対策に伴う設計変更を沖縄県に申請したのは、この翌日というタイミングだった。

県には一切の事前連絡がなく、21日から県職員の出勤を半減に抑えた矢先の出来事だった。玉城知事は「対話に応じず県民に十分な説明をしないまま、工事の手続きを一方的に進めるのは到底納得できない」と反発し、申請を認めない姿勢をにじませた。

沖縄の地元紙記者は県の受け止めについてこう説明する。

「変更申請は織り込み済みで、所管部は担当職員を決めるなど体制はできあがっていました。それでも全国にコロナ危機が浸透する中で、まさか国の緊急事態宣言の区切りである5月6日(のちに延長を発表)より前に提出はないだろうという楽観論が広がっていました」

なぜこのタイミングだったのか。6月7日投開票の沖縄県議選へのプラス、マイナス両面の影響を指摘する声もあるが、いずれにせよ、官邸の意向が強く反映しているのは間違いない。新型コロナの被害が拡大する中、防衛省は職員を交代で在宅勤務にしていたが、設計変更の担当チームは一部の職員が在宅勤務を返上し、2200ページもの書類の確認にあたった。

新型コロナと普天間・辺野古問題は全く別次元の問題だ。しかし、コロナ対策を誤れば玉城知事の求心力が失われ、基地問題にも影響するのは避けられない。政府はその相関を十分認識した上で、非常時にもかかわらず、あえて県政に「圧力」をかけたのだ。前出の野添さんはこう憤る。

「沖縄県がコロナ対応に追われている中での突然の設計変更申請は弱みにつけ込んだ、『卑怯』な行為だという印象を持ちました。玉城知事も辺野古の工事中断を菅義偉官房長官に要請し、コロナという『国難』に一致団結して専念するため『休戦』しようというムードだったはず。軟弱地盤の問題も十分説明がなされない中、『不要不急』の申請だったと思います」

いま、全国メディアで繰り返し報じられる「沖縄」に関するニュースは、沖縄県の尖閣諸島・魚釣島沖で中国海警局所属の公船が5月8日から3日連続で日本の領海に侵入し、付近の海域で操業していた沖縄県の与那国町漁協所属の漁船に接近した問題だ。 このため、多くの日本国民は「弱みにつけ込む卑怯」はコロナ危機の渦中に尖閣への領海侵犯を繰り返す中国政府の行為だと認識しているのではないか。だが沖縄から見れば、「辺野古」に対する日本政府の対応も同様なのだ。

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