つけは国民に
野添さんは沖縄の米軍基地の整理縮小を考えるため、沖縄県が設けた有識者会議「万国津梁会議」の副委員長を務めた。
同会議は3月26日、在沖海兵隊を本土の自衛隊基地に分散することが安全保障上も合理的とする提言書を玉城デニー知事に提出した。形式としては玉城知事への答申だが、日本全体で沖縄の基地負担軽減と安全保障を議論することを求める提言内容は、政府や本土世論に対するアピールという面が大きい。野添さんは提言の趣旨をこう説明する。
「玉城知事が強調しているように提言書も『対話を通じた解決』を重視し、沖縄の基地問題が日本全体の問題、日米同盟の問題だという共通認識の形成に重きを置きました。日本の外交・安全保障や日米同盟の持続可能性を維持するためにも、この問題を日本全体、日米間でもっと議論しようというのが最大のメッセージです」
提言は、辺野古新基地建設が軟弱地盤の発覚で技術的、財政的に「完成は困難」と指摘。「普天間飛行場の速やかな危険性除去と運用停止を可能にする方策を具体化すべきだ」とした。その上で、中国軍のミサイル能力の向上など東アジアの安全保障環境の変化や、米軍が恒久的な基地より兵力を分散化した戦略構想を掲げている点なども挙げ、在沖海兵隊を本土の自衛隊基地へ分散移転し、基地を共同使用することなどを提案している。
「あえて軍事戦略に紙幅を割いたのは、軍事的合理性の観点からも沖縄の問題に取り組むことがメリットだと示し、議論の土台を作るためでした。論点整理をして取り組むべき課題を時間軸に沿って提示したのも、まずは『喫緊の課題』として辺野古計画の見直しを訴える必要を感じたからです」(野添さん)
辺野古新基地建設は、普天間飛行場の早期返還のための事業のはずが、完了までになお12年の歳月がかかることを政府が公表している。このため提言書は、事実上、普天間飛行場が「固定化」される中、「本来の目的」である普天間の早期の危険性除去と運用停止のための取り組みを優先的に開始するよう訴えている。
また提言書は、辺野古新基地の総工費は政府試算でも当初想定の2・7倍の9300億円に上ることを受け、「莫大な費用を、別の用途のために使用した方が、日本の政治や経済、さらには安全保障にとってはるかに有益であろう」とも指摘している。
「この指摘を盛り込んだのは、米国の専門家と意見交換した際、辺野古新基地建設の費用を別の防衛装備に使ったほうが、軍事的に意味があると言われたことが印象的だったからです。今後も膨大な税金を注ぎ込む辺野古新基地建設は、日本国民全体の負担という問題意識もありました。コロナ危機を受け、日本の経済財政はさらに悪化していくことが予想される中、この莫大な費用が日本の財政負担になることはより切実な問題になっていると思います」
将来の地盤沈下対策などを考えるとさらなる予算の膨張は必至だ。野添さんはこう続ける。
「日本の当局者は、辺野古移設を進めることが日米同盟の抑止力のためだと言いますが、軟弱地盤によって完成後も地盤沈下が予想され、滑走路の長さにも機能上の問題がある新基地建設が抑止力向上にならないことは、むしろ米軍がよく理解しているはずです。コロナ後の世界を見据えて、また海兵隊が戦略を見直している今だからこそ、辺野古なき普天間返還に向けた議論に日米両政府は沖縄県とともに取り組むべきだと思います」
既定路線にこだわり、保身のために不合理な政策に血税を注ぎ続ける安倍政権と官僚。そのつけは国民に回される。
あえて付言しておきたい。中国海警局所属の公船の尖閣接近への対応は海上保安庁が担う。中国の領土的野心が、「辺野古強行」にお墨付きを与える理由にはならない。危機の本質を冷静に見極める視点は、世論にも求められている。
【本稿は週刊アエラ記事を加筆修正の上、転載しました】