「一人当たり県民所得は全国最下位」「(予測)実質成長率は全国トップ」
どちらも沖縄経済を評する際に用いられるキーワードであるが、どの指標を強調するかによって、印象は異なってくる。では、実際の沖縄経済を、私たちはどのように理解すればよいのだろうか。本書は、沖縄国際大学経済学科教員による、その問いへ回答だといえよう。
本書は全12章からなり、冒頭、日本の中での沖縄経済の「立ち位置」が、各種経済データをもとに、全国平均だけでなく類似県との比較も行いながら丁寧に明らかにされる。そこに至った要因を、琉球国の時代にまで遡り、その後の各時代の統治主体が形成した「制度」と関連づけながら分析する。さらに、米国施政権下における沖縄経済の「高度成長」を描いたうえで、日本本土の「高度成長」との違いを指摘する。そして、1972年の日本復帰後に形成された「制度」である「沖縄振興(開発)計画」の成果等の分析がなされる。そこでは、国からの移転財源の総額は「他県に比べて突出して多い状況にあるわけではない」と結論づけられており、今後の「沖縄振興」を考える際の重要な論点提起がなされている。
さらに、現在の沖縄経済を考える上で避けては通れない各論(「観光」「グローバル化」「都市化」「離島経済」「消費者行政」「共同売店」)も並んでおり、多面的に沖縄経済の実相が描かれている。
また、本書は沖縄経済の分析だけにとどまらない。ゲーム理論と行動経済学の視点を用いて、在日米軍基地が沖縄に集中している要因と解決策を考察するチャレンジングな論考も掲載されている。
新型コロナウィルスの感染拡大により沖縄経済は大きなダメージを受け、先行きは不透明である。中長期的な沖縄経済の行方を考えていく上では、本書に記載されている歴史や実情の丁寧な理解が不可欠であると再認識させられた。
大学1年生向け講義のテキストとして編集されたそうだが、政策立案に携わる方々、そして、沖縄経済に関心ある皆さまにも手に取っていただきたい一冊である。
【本稿は沖縄タイムス 2021年1月9日19面・読書欄に掲載された原稿を転載しました】