こんなにすぐそばに満州があって、遺骨があった。
昼下がりの光が差し込む明るい会議室。
11人の請願者の名前と住所と判子の下に、三盃議員の署名、判子が押される。
「なんか聞きたいことないんか?」
沈黙を破るように三盃議員が記者に聞く。
記者がなにかそれっぽい質問をし、議員はそれに答えたあと、
聞かれていない議員自身の戦争について話してくれる。
両親は満州に行っていたこと。
姉は満州で生まれたこと。
引き上げるとき、亡くなった親戚をキャンプファイヤーみたいに野原で焼いて、
その遺骨を大事に日本に持って帰ってきたこと。
こんなにすぐそばに満州があって、遺骨があった。
お話を聞いたあと、議会事務局の方に請願書、署名を手渡した。
6月30日、6月議会最終日。
請願書は「継続審査」になった。
暗くなってから三盃議員がわざわざうちへ報告に来てくれる。
私たちの請願書と別に、全市町村へ同様の請願が来ていることが頭を混乱させ、
時間もないので、9月議会までもう少し勉強しましょう、という話だったと。
あからさまに反対を叫ぶ人は誰もいなかったと。
宙ぶらりん。
でも、不採択じゃなくてよかった。
もっとよかったことは、金沢市議会が全会一致で可決されたこと。
請願書提出について相談させてもらっていたうちのおひとり、山本由起子金沢市議より驚きと喜びのメールが入る。
本当に嬉しかった。
「基地の埋め立てでも、ショッピングモールの埋め立てでも遺骨の土は使わないでほしい」
さて「継続審査」とは次議会で話し合われるということではなく、
閉会中に委員会で話し合いが行われ、9月議会で採決がなされるということ。
委員会の傍聴は要予約だが可能らしい。そこで意見を言う方法もあるらしい。
事務局長から丁寧に教わったけど、夏の仕事の忙しさを理由に何も動かなかった。
8月3日、珠洲市議会事務局からうちに電話があった。
委員会で話し合いをしているが、一度ご本人から趣旨説明をしてもらいたい、とのこと。
8月10日、午後、総務教育常任委員会へ。
12人の珠洲市議会議員を2つに分けたうちの1つの委員会。
その委員会には所属していない三盃議員も招かれていた。
請願者2人で参加。かなりしっかりとした会議室。
議員の皆さんが聞きたいことは一つ。
「土を使わないでほしいということなのか、辺野古の埋め立てをやめてほしいということなのか」
私はズルかったのかもしれない。
その二つは分離できるものではないというのが本音だが、ケースバイケース。
ここで伝わる言葉を話さなければならない。
「基地の埋め立てでも、ショッピングモールの埋め立てでも遺骨の土は使わないでほしい」と答えた。
中にはしつこく、遺骨が入っていない県外の土をもってきて埋め立てることはどう思うのか、
などと聞いてくる人もいた。
もうやることはやったという思いで集中力を仕事に向けて夏が終わった。
* * *
9月18日、金沢の知人のメールで議会はどうなったかと聞かれ、ああ、もう9月も半ばかと気づく。
確か最終日に採決されるはずだと返事をする。
その数日後だったか、新聞の「議会だより」コーナーで珠洲、閉会と書かれていてショックを受ける。
どうなったの?
なぜ三盃議員からも連絡がないのか。電話をかけるが出てくれない。
9月24日、金曜日、採決結果を聞くため、議会事務局に電話。
「27日の最終日に採決されます」
と事務局長。終わっていなかった。
私はなにを読み間違えたのだろう。ともかく、よかった。
そのほか、これまでの流れ、これからのスケジュールを詳しく説明してくれた。
26日、前日、請願者になってくれた10人に個別連絡をする。
請願者はみんな都合がつかず、私だけが傍聴に行くことになりそう。
不安なので父を誘うと、行ってくれると言う。