第一次世界大戦後の1922年、米・英・仏・日・伊により締結された「ワシントン海軍軍縮条約」は、軍艦の保有数を制限する等の軍縮条約を締結しているが、そのなかで、日本はアジア太平洋地域の「島嶼要塞化禁止条項」を提案している。
これは、太平洋における各国の本土並びに本土にごく近接した島嶼以外の島嶼領土については、現在ある以上の軍事施設の要塞化を禁止するというもので、日本は千島諸島・小笠原諸島・琉球諸島・台湾・澎湖諸島、サイパン・テニアンなど、アメリカは、フィリピン・グアム・サモア・アリューシャン諸島などの要塞化をそれぞれ禁止した。重要なのは、結果的には太平洋戦争へ向かうこの時代においてさえも、アジア太平洋地域の島嶼をめぐる軍拡の危機に対して、国境に面した島嶼の非軍事化が推し進められたということである。
軍拡が進めば進むほど国境に面した島嶼は最前線に押し出される。そして、なるべく本土全面戦争を避けたいが、本土から遠く離れた国境に面した島嶼であればと、国民からも意識を遠ざけ、敢えて政治的緊張が作られることで、軍民分離の原則に基づく島外避難も不可能なまま、住民を巻き込んだ突発的な島嶼限定戦争(紛争)の危険が絶えず生ずる。
ロシアのウクライナ軍事侵攻は断じて許されない。しかしウクライナが西側と東側の大国間における安全保障の手段となり犠牲となっている側面は否めない。ましてや国境に面した島嶼は本土防衛の機能ではなく、安全保障のための手段ではない。島々に住む人びとも、同じ日本に住む者として、平等に日々の生活における幸福追求が目的とされなければならないのである。
したがって、日本に求められているのは、琉球諸島を安全保障の機能や手段とすることではない。独立した主権国家として、ワシントン海軍軍縮条約の「島嶼要塞化禁止条項」のように、米・中・露に北方領土と南西諸島を緩衝地帯とすること、そして相互の不可侵を呼びかけ、中国の民主化を求め、台湾への軍事侵攻は許されないという声を世界的に広げていく政治外交努力なのである。
国境に面した島嶼の軍事要塞化は国際常識ではなく、むしろ非常識である。宮古・八重山、そして琉球諸島の人びとがこの認識を基に紐帯し、沖縄が再び「捨て石」にされないよう求めていくべきではないだろうか。
【本稿は2022年2月28日付「八重山毎日新聞」掲載記事を転載しました】