沖縄、貧しき豊かさの国――岸本建男と象設計集団が遺したもの【第4回 大屋根の下を抜ける風――今帰仁村中央公民館の優雅】

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丸山が強調するのは、夏の暑熱を防ぐ屋根の三層構造である。屋根を覆うパーゴラとこれにからませたブーゲンビリアやウッドローズの植生が太陽光を遮り、屋根スラブとの間に空間を確保する。さらに屋根スラブと室内をつくる木造フラット屋根の間にも空間をつくった。丸山がスイスで学んだ断熱技術と沖縄で知った植生利用が合わさって生まれた工法だった。

そしてなんといってもこの建物の個性を強く主張しているのは、大屋根の縁を支える多数の列柱である。この外部と内部の境界空間は沖縄でいう天端[アマハジ]だ。列柱は内外を隔てつつ内外を同化させる柔らかな境界である。自然(さらに超自然としての神)とゆるやかにつながる沖縄の生活の時空間が象徴されていた。

中央公民館は、「象」のその後の建築の起点になっている。沖縄の自然と暮らしに学び、しかもその学びを高度に凝縮してみせた造形は簡素で、しかも圧倒的である。

「象」の重村力から頼まれ、夏休みに石川市の土地利用計画を手伝っていた内田文雄(当時早稲田大学修士1年生、現・龍環境計画代表)は、東京へ帰る前に竣工したばかりのこの建築を見に行った。中庭に立って建物を見た瞬間、強く衝撃を受け、続いて熱いものがこみ上げてきた。内田はこのとき「象」に参加することを決意したという。

彼は3年後に名護市庁舎のコンペスタッフに加わり、受注後は、施主交渉から工事監理まですべての現場実務にかかわるチーフとして名護で活動することになる。

今帰仁村中央公民館 (屋根を覆っていたパーゴラと植生は台風で壊れ取り外された)=筆者撮影

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