日常生活から見る沖縄の社会変容~コトバ編

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「ウチナーグチ」起源のフレーズ

 

この「ユンタク」をめぐる出来事が印象的だったので、子どもたちが寝た後の夫婦の団欒で「子どものコトバ」が話題になった。妻はこの地域の出身で、小中高と地元の学校に通った。つまりこの地域の子どもが「昔話していたコトバ」と「今話しているコトバ」を比較できる立場にある。

彼女曰く、彼女が小・中学生だった時分(1980年代)、教室では「フラー(バカ・まぬけ)」「ウシェーテル(なまいきだ・なめてる・調子乗ってる・馬鹿にしている、など)」といった「ウチナーグチ(沖縄語)」起源のフレーズが飛び交っていたという。

特に印象に残っているのは中学校に入学したばかりのある日、ヤンキー風の女の先輩グループに新入生の女子全員が中庭に呼び出された時の事だという。最初に権威を示して下級生を統制しやすくするためだろうか。先輩たちは中庭に集めた新入生達を前に「廊下で先輩とすれ違う時は必ず挨拶をすること」といった内容の演説をぶちつつ、「なまいき」と思った娘に鋭い言葉を浴びせた。

その時「ハバチュケルナ(かっこつけるな) 」などと並んで盛んに使われた単語が「フラー」や「ウシェーテル」だったので今でも記憶に残るコトバになっているという。

ウチナーヤマトゥグチの「フツーの日本語」化?

 

よく知られるように復帰後の沖縄では、同世代でも出身地域や家庭環境(親の職業など)によって話しコトバが大きく異なる傾向がある。アラフィフの私と同世代でも「ウチナーグチ(沖縄語)」で育ったという人から物心ついた時から家族同士の会話も「フツーの日本語」だった、という人まで様々だ。

妻の場合は、ハワイの沖縄移民家庭の出身だった祖母が「ウチナーグチ(沖縄語)」が得意でなかったこともあり、家庭での話しコトバは「フツーの日本語」に近かったようだ。しかし、先輩達が使う「ウシェーテル」のようなウチナーヤマトゥグチの単語の意味はもちろん全部わかったし、沖縄本島で育った同世代人だったら分からない人はいないはずだという。

それから30年以上たった今、この地域の子どもたちの話コトバはどのようなものか。私は、沖縄にいる時は自宅で作業する事が多いのだが、その際自宅に遊びに来る息子たちの友達グループ(多い時で10人弱)の会話が(けんかも含めて)耳に入ってくる。つまり「大人向け」ではない「子ども同士」で使われているコトバを頻繁に耳にしている。

長男が1年生の頃からもう6年も聞き続けているが、「ワン(俺・私)」、「ヤー(お前)」、「クルス(ぶっコロす)」、「ユクサー(うそつき)」、「フラー(バカ・まぬけ)」といったウチナーヤマトゥグチの代表的な表現を聞いたことがない。
印象に残っているのは「あいつは押しが強い」という意味の「あいつアライ」という表現と、ハゴー(汚い)という単語に流行語の「カミってる」を掛け合わせた「あいつハゴってる」や「あいつハゴい」といった表現だ。あとはセンテンスの語尾が「~バー」とか「~ワケさー」といった表現に「沖縄らしさ」が感じられるくらいだ。

今の子どもたちの話すコトバも沖縄語(ウチナーグチ)の影響を受けている以上「ウチナーヤマトゥグチ」の範疇には入ると思うが、沖縄語由来の語彙や表現はこの30年間に大幅に減少したのではないだろうか。

実は、私は結婚前の1990年代にも5年ほど沖縄に住んでいた事がある。沖縄に来たばかりの頃、街中でたまたま近くにいたヤンキー中学生風の男子達の会話の中身が全然わからなくてあせった記憶がある。しかし2008年に沖縄に戻ってからは、ウチナーヤマトゥグチの単語を共通語と勘違いした妻の言っている事が分からない事はタマにあっても、「子どもたちの会話が分からない」と思った事は一度もない。

だから世代交代が進むにつれ「ウチナーヤマトゥグチは『フツーの日本語』化しつつあるのではないか」、と私は考えている。

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