「民主主義に違いはあるのか」
北東側の埋め立て予定区域の大浦湾では、広範な軟弱地盤が判明した。県独自の試算では、埋め立てには2兆5500億円の予算と13年半の工期がかかる見通しだが、国は「根拠がない」とはねつけるだけで、総工費も工期も明示していない。
玉城知事は、1兆円を超える税金が投じられながら終わりのないトラブルの泥沼に沈んだ高速増殖原型炉「もんじゅ」と辺野古を重ねる。
「工事は一筋縄では進まないでしょう。どれだけ予算がかかるかもわからない。辺野古を『もんじゅ』みたいにしてしまいかねないことが今の段階でわかりきっている。そしてその間、普天間の危険性は放置されたままになる。政権は全体の設計図も、予算がいくらかかるかという説明も国民に示さず、できることからやってしまえ、沖縄の民意をつぶしてしまえ、埋め立ててしまえという行動を続けている。これはもう、おぞましさの極致です」
政府は、安全保障政策は国の専権事項だと強調する。しかし、玉城知事は「安保も民意を無視できるような聖域ではない」と訴える。
「国が『安保は国の専権事項だ』と我々の要求を無視し続ければ、辺野古の工事は進まず、結果的に日本政府は米国政府との約束を果たせない。だから、協議のプロセスで地元の意向をくむことは不可欠なのです」
政府の姿勢で玉城知事が特に問題視するのが、岩屋毅防衛相が2月26日の記者会見で発言した、民主主義に対する見解だ。県民投票で「辺野古反対」の民意が示されたことに関し、「沖縄には沖縄の民主主義があり、しかし国には国の民主主義がある。それぞれに、民意に対して責任を負っている」と述べ、国として新基地建設を進める立場を主張したのだ。
玉城知事は言う。
「この国には一体いくつの民主主義があるのですか、と言いたい。民主主義国家は普遍的な価値観を共有する社会のはずなのに、防衛大臣が否定するようなことを公言する。おぞましさを感じます」
玉城知事は昨年11月に訪米した際、「米国の民主主義と日本の民主主義と沖縄の民主主義は何が違うんですか。みなさんの中で民主主義の違いがあるんですか」と訴えた。
「誰も違いがあるなんて思っていないから、誰も反論しませんでしたよ。民主主義は一緒。だから私たちは同盟関係を結び、民主主義国家として互いに繁栄していこうという協力関係が保てるわけです。岩屋防衛相の認識だと、その信頼関係が根本から損なわれます。そういう言葉が出てくること自体が、私はもう非常に残念ですね」
玉城知事は、安倍首相が繰り返す「沖縄に寄り添う」という言葉に、「ある人」を思い出さずにいられないという。
「お名前をここで出すのも気が引けるのですが、天皇陛下は皇太子のころから11回沖縄に来られ、ウチナーグチを習得されて、8・8・8・6の30音でつくられる琉歌で思いを詠まれてきました。そうした積み重ねの上に、沖縄県民に『心を寄せる』と発言されました。私は日本人として、『寄り添う』という言葉の深みを、安倍首相には心底お勉強してもらいたいと思います」
【本稿は『AERA』2019年3月11日号記事を再構成しました】