北欧に「SACWO」のヒントあり

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「リスクの共有」がカギ

 

グリーンランド自治政府が、先住民族であるイヌイットの権利回復を自治権拡大要求に絡めて展開したことも交渉をスムーズに進める上で奏功した、と高橋助教は指摘する。

「先住民族の権利尊重は国際潮流でもあり、デンマークから自治権を引き出す上で有効に作用しました。マイノリティーを社会に包摂し、丁寧な合意形成を図る北欧民主主義に根差した政治文化も後押ししたと思います」

一方、沖縄県の翁長雄志前知事は15年、国連人権委員会で演説し、「沖縄の人々の自己決定権がないがしろにされている辺野古の状況を、世界中から関心を持って見てください」などと訴えた。国連人種差別撤廃委員会は188月、日本政府に対し、沖縄の人々は「先住民族」だとして、その権利を保護するよう勧告。米軍基地に起因する米軍機事故や女性に対する暴力について「沖縄の人々が直面している課題」と懸念を示した。

しかし、日本政府はこの勧告を無視し続けているのが実情だ。

高橋助教はSACWOのような三者協議機関の設置実現のカギは、中央政府と地方政治主体の「リスクの共有」だと唱える。

「中央政府と地方政治主体のリスクに対する認識がずれていると交渉はかみ合いません。北欧では、グリーンランドの米軍基地の安定的運用を継続させることが、グリーンランドを含むデンマーク国家全体の安全保障に寄与することをデンマーク、グリーンランド双方が認めています」

日本ではどうか。玉城知事、翁長前知事ともに日米同盟の意義を認めた上で、普天間飛行場返還の手法として、辺野古新基地建設に固執することが県民の反発を強め、ひいては沖縄の米軍基地全体の安定運用を脅かすリスクにつながりかねない、との認識だ。これに対し、「辺野古が唯一」と繰り返す政府とはかみ合わない状況が続いている。

「普天間の危険性」というリスクの共有をどう生かし、一日も早い危険性除去に向けた真の有効策を講じられるかが問われている。

高橋助教はSACWO設置の意義についてこう話す。

「基地や安全保障の持続可能性の観点からも認識共有の舞台をつくるのは重要です。三者による協議機関を有効に機能させるには、国家間の軍事合理性の観点だけでなく、環境保全など長期的な地域の生活者の利益をさまたげないことが、結果的に基地の持続的運用につながることを認識共有できるようなテーマ設定も大事です」

 

【本稿は『週刊アエラ』422日号を加筆転載しました】

(*グリーンランドの米軍基地とその政治力学については、東京工業大学の川名晋史准教授らとともに、TAKAHASHI, Minori (ed.) (2019). The Influence of Sub-state Actors on National Security: Using Military Bases to Forge Autonomy (Springer Polar Sciences). Berlin/Heidelberg/Dordrecht/New York: Springer.にまとめている)

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