経済開発をトピックとして取り上げた意図
――この本のもう一つ面白い点として、復帰運動史や政治史などの研究ではなかなか言及されない経済開発について第5章で扱っています。一見すると浮いている印象を与えかねないテーマ配置だと思いますが、どのような意図から取り上げたのでしょうか。
秋山:ご指摘いただいた点は、この本のなかでも違和感や疑問が出やすいところだと思います。
ここでの狙いは、ゼネスト回避後に、人びとの自主性や主体性を発揮しようとする動きがいかに変容していったのかに迫ることでした。その時期、B52撤去にかわって焦点となったのが、外資導入と尖閣列島の資源開発という二つの経済開発でした。前者の外資導入をめぐっては、1967年頃から石油外資の導入推進が話題として浮上しており、沖縄にとっての利益、すなわち「県益」を守るべきだという主張がなされ、そこに自主性や主体性を求める動きが出てきます。ただ、この石油外資の導入自体は、公害をともなうような大規模開発で、工場建設などの具体的な動きのなかで地域から反発を受け、「島ぐるみ」の動きにはならなかった。
一方、後者の尖閣列島の資源開発では、住民生活への直接的な悪影響もなく、また大きな「県益」をもたらすとされたことで、民主団体から経済団体までを巻き込んで県益擁護運動が展開されました。結果的に、主に政府レベルで、台湾・中国による領有権の主張と、領土問題を政治問題化させたくない米国・日本の「国益」を重視する動きから、この開発は具体化せずに終わりますが、本書では、沖縄の人びとが、経済開発に自主性や主体性の発揮できる余地を見出した過程について浮き彫りにしたかったのです。
ただし、ここで注意が必要なのは、この県益擁護運動が、自主性や主体性を発揮しようとした動きであったのと同時に、その後の日本復帰という国家統合のなかで、「経済的な豊かさ」や「本土との格差是正」の名の下、開発優先の経済政策に組み込まれていく端緒でもあった、ということです。その意味で、第5章は、ゼネスト回避以降に選択肢が限定されていくなかで、新たな沖縄のビジョンを見出そうとする動きと、その限界について示そうとしたものだと言えます。