子を守りたいという声はなぜ届かないのか~安全より国防優先の日米地位協定~

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米軍は住民への損害賠償義務が免除

日米地位協定第17条と第18条は、在日米軍の裁判管轄権について定めている。刑事裁判権を規定した第17条の問題は知られているが、民事裁判権を規定している第18条の問題は理解されていない。というのも、在日米軍は基本的に、日本国内の住民の身体や財産に損害を与えても、賠償義務が免除される。日米地位協定だけではなく、NATO軍地位協定などのほとんどの米軍地位協定でも、同じように定められている。これを、国際法上の主権免除原則という。

日米地位協定で損害賠償責任を負わないので、在日米軍には、事件・事故を避けるインセンティブがはたらきにくい。また、事件・事故の責任を認めるかどうかは、政治的な判断になる。米海兵隊は、普天間第二小学校については、部品落下の事実を認めて謝罪したが、緑ヶ丘保育園については、現在に至るまで事実を認めていない。

 なお、軍隊としての米軍は、民事責任が免除されているが、個人としての米軍関係者には、民事責任が認められている。公務外で起こした事件・事故の場合、米軍関係者は、日本の法律にもとづいて民事責任を負う。公務執行中、つまり任務中に起こした事件・事故であっても、米軍関係者には一定の損害賠償の義務がある。

日本の裁判の判決に従わない米軍

ややこしいのは、在日米軍の活動によって、住民が被害を被ったとき、米軍の民事責任が、日本の裁判で認められることがある。この場合には、米国ではなく日本政府が、被害者からの損害賠償請求を処理する。

公務執行中の米軍関係者の行動についても、同様である。米軍関係者の事件・事故に対する裁判が行われ、日本の裁判所が判決を下した場合、判決の執行手続きに、その米軍関係者は従う義務がない。日本政府が責任を持つ。日本政府が被害者に賠償金を支払った後、米側も責任を認めれば、第18条に定められた分担比率に従って、日本政府にお金を返す。

 問題は、在日米軍が、公務執行中の米軍関係者個人にも損害賠償義務はない、としばしば主張することだ。日本の裁判所が、米軍のこの主張を認めて被害者の訴えを退けたことがあるため、米軍の主張に一定の根拠を与えてしまっている。

また、賠償金を分担したくない米軍側が、裁判で認定された責任を認めることを拒否する事態も、しばしば起こる。責任を認めるかどうかは米側に委ねられた規定となっていることが、こうした問題を引き起こしている。

米軍への国内法適用除外

日本政府が、米軍の基地外の訓練を規制することはできないのか。日米地位協定第3条第1項には、日本政府は、「関係法令の範囲内で」米軍の基地の出入りに便宜をはかるとある。だが、日本政府は、米軍の国内移動に道路法や道路交通法、航空法、港則法などが適用されないよう、法整備を行ってきた。

外務省が1983年に作成した「日米地位協定の考え方〔増補版〕」には、国内移動は在日米軍の当然の「権利」であり、それを妨げるような国内法の適用は、「地位協定上我が国の義務違反」だと書かれている。米軍の訓練が周辺諸国への抑止力になっており、日本の安全保障上重要だから制限すべきではないという考えだ。

日本政府が住民の生活の安全や安心よりも国防を優先する限り、沖縄の子どもたちが青空の下でのびのびと過ごせる日は来ない。

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