海兵隊の再編は沖縄に何をもたらすか【下】

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米中対立の「最前線」

 米中対立が激化する中で、沖縄は地理的にその対立の「最前線」に位置する。このような沖縄は、米軍にとって極めて重要であるのは間違いない。海兵隊は、沖縄に司令部を置くⅢMEFを最重視し、また海兵沿岸連隊を新たに設置しようとしている。バーガー総司令官は、海兵沿岸連隊の設置によって米軍の人数が増えるわけではないとはいうが、海兵隊が中国に対抗すべく非常に攻撃的な部隊に変貌しようとしている中、沖縄では不安の声が高まるだろう。

 すでにEABOの訓練が沖縄で活発に行われ、有事には海兵隊がミサイルで中国軍を狙うことが予想される中、平時と有事双方において沖縄県民の危険性は高まることになるだろう。さらに、自衛隊と海兵隊の連携が進み、共同訓練が行われたり、自衛隊の部隊が新たに配備されたりすることになれば、沖縄の基地負担はさらに高まることになる。日米両政府には、沖縄にどのような兵力が配備され、何をするのか、沖縄県と県民に対して丁寧な説明が求められることはいうまでもない。

 他方で、バーガー総司令官自らが認めているように、中国のミサイル能力が高まる中、大規模で固定的な基地は軍事的に脆弱になっている。それゆえ、現在、海兵隊は、分散によって、小規模の部隊で行動することを目指しているのである。海兵沿岸連隊も平時から分散・ローテーションによるプレゼンスの形をとるようである。こうした中で、海兵隊のMAGTFという組織編成さえも見直される可能性がある。

 近年、米軍は海兵隊のみならず、様々な軍種が中国のミサイル能力に対抗するために分散化やローテーション化を重視している。エスパー国防長官は、前方配備された兵力を削減し、よりローテーション化された米軍のプレゼンスを目指していると述べた(Breaking Defense, July 21, 2020)。上院軍事委員会も2021年会計年度の国防権限法案で、インド太平洋軍の態勢について、大規模で集中したインフラから、より小さく、分散化された基地へ移行するよう強調した(Breaking Defense, June 11, 2020)。このように、米軍のプレゼンスのあり方が現在、見直されているのである。

もちろん、海兵隊の分散化作戦が、自動的に沖縄の米軍基地の集中の是正にただちにつながる訳ではない。米軍全体の分散化への志向は、むしろ基地やアクセス拠点の増大を招く可能性もある。しかし、中国に近接し基地の集中する沖縄は、海兵隊を含め米軍にとってあまりにも危険である。そして、沖縄は地理的に重要だとはいっても、沖縄だけではなく、日本列島から台湾、フィリピンへと至る「第一列島線」全体が米軍にとって重要であることを見逃してはならない。米軍の抑止力が重要であるならば、さらなる兵力の分散化、ローテーション化によって、沖縄に集中する米軍のあり方を見直す必要があるのではないか。さらに自衛隊が沖縄を重視する中、米軍のあり方を見直さなければ、自衛隊にも沖縄から批判の矛先が向かうことにも注意しなければならない。

いずれにせよ、どのような米軍の配備の見直しがあり得るのか、米軍の戦略を注視する必要がある。そして、最も重要なことは、対立の「最前線」となりつつある沖縄を戦争に巻き込まないための緊張緩和であり、それは政治・外交の役割であることを最後に強調したい。

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